第99話 勝敗

「っ! あそこだ!」


 走っていたキャサリンは、あのスタジアムで戦った電気の能力を持ったペストが車を爆発させているところを見た。あのときは暗闇で彼女の姿はよく見えなかったが、今ははっきりと特徴を捉えることができた。


 普通ペストのテロリストといえば、ピアス開けまくりのヤンキーみたいな恰好をしている人か、逆に「神の僕」のような奇抜な格好をするかの二択が多いが、目の前の少女はそのどちらでもなかった。彼女はごく普通の何もいじっていない短い黒髪に、黒いだぼだぼのパーカーを着ていた。下は同じくちょっと緩そうなワークパンツで、靴はただのスニーカーである。丸眼鏡を掛けたその目は暗く冷たい。


「私に任せて、ローザ。火を消せるのは闇と、水の能力者だけだから!」


「わかってるわ」


 キャサリンは前に出る。二人は一瞬睨みあった。攻撃は向こうが先だった。せまりくる青白い電気。


「もうその手にはかからない!」


 キャサリンはオクサーナに教えてもらった技を使った。


「水・凍てつく吐息Frozen breath!」


 冷たい氷と雪は雷を打ち消した。敵は舌打ちをして、距離を取ろうとした。


「待て!」


 キャサリンは吹雪で相手に攻撃させないようにしながら、だんだんと追い詰めてきた。相手は速いスピードで逃げていく。だが、地面に降り立ったとき、いつのまにか地中にもぐっていたローザが彼女の足元から出てきた。それは大地能力者にしかできない技術で、窒息しない程度なら地面の下に潜んでいられた。


「大地・茨の籠Cage of thorns!」


 ローザは能力を発動した。太い茨が数本地面から生えてきて、黒髪の少女を捕らえた。敵はすぐに炎の能力を使おうとしたが、その前にキャサリンがガブリエラと発明した、気孔からでる水蒸気を使って氷らせる技を使用し、完全に彼女が出られないようにした。


「よし!」


 キャサリンとローザは勝ち誇った笑みを浮かべた。敵は氷と茨の結晶の中で不満そうに腕を組んだ。もう逃げられないかと思われたが_____


 突然、周りが見えなくなった。真っ黒になったのだ。


「ローザ?」


 キャサリンは仲間の名を呼びかけたが返事はなかった。何も聞こえなかった。空気の流れも感じない。


(おかしい……こんなのおかしい……)


 キャサリンは魔力を使おうとしたが、水も風も一切でてこなかった。羽も出せない。


「やっぱり……闇の能力だ!」


 闇の能力の対処法はたった一つ。物理的にそこから出ること。キャサリンはまっすぐ走り出した。まっすぐ敵のところに飛び込んでいることも知らずに……。




「あひゃひゃひゃひゃ!」


 翔とライアン、そして黒人の少年、ルーカスは南側にいた。そこで甲高い笑い声が響いた。声の主は女で、ピンク色の髪を半分刈り取っていてピアスをたくさんつけていた。

 三人はすでに羽を出している。ライアンの羽はトンボ型で、上から下に向かってだんだん青が濃くなるような綺麗なものだった。ルーカスのはハチ型の、夕焼け色をした羽だった。


「うえ。俺ああいうタイプ苦手なんだよね」


 女を見て、ライアンがぼそっと呟いた。


「それには俺も賛同する」


 翔が返した。ライアンは少し笑ったが、すぐに声の調子を戻して言った。


「翔、能力の調査を頼んだ」


「ああ」


 複数能力をもった翔は女に飛んでいった。


「あら、さっそく獲物? ふぅん、なかなかいい男じゃない。まあ、うちのボスにはぜんぜん敵わないけどね!」


 女は叫ぶと突風を繰り出した。そこに針を投げて、紛れ込ませる。翔は避けようとするが、数本がかすんだり刺さったりした。


「ちっ」


 少年はすぐに仲間のところまで戻った。


「おい、大丈夫か?」


 血だらけになった翔を見て、ルーカスが心配した。だが、翔の体はすぐに再生した。


「平気だ。大地の能力のおかげでな。どうやらあいつは武器を使うらしい」


「なるほどね」


 そこで西のほうで闇の靄が充満したのが見えた。空に薄く浮かんでいるアドハムとライラのものではない。悲鳴が聞こえた。


「っ、ローザ?!」


 ライアンはとたんに取り乱した。ローザのそばにはキャサリンもいたので、翔も心配になる。半分パニック状態になったフランス人の少年を、ルーカスが諫めた。


「オーマイゴッド、お前が落ち着かないとダメじゃんかよ。翔、ローザとキャサリンが無事か確かめてくれないか? その間にこっちはあれを片付ける」


「わかった。ありがとう」


 翔はすぐにそっちに向かった。

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