第98話 戦闘開始
木曜日となった。二班はピリピリとした空気をまとっていた。班員たちは学校を休み、ドジャースタジアムの周りを見回った。
水の能力をもつペストたちは平気だったが、他にとっては二月という真冬の中を歩き回るのは少し肌寒いと感じた。
驚くことにその日はなにも起こらなかった。試合が終わったときに、当惑した表情のキャサリンを見たミラは彼女に説明した。
「いや、もともと木曜日に襲撃が起こる可能性はそこまで高くないのは予想していたんだよ。やっぱり平日はそこまで人は来ないからね。土曜日が一番怪しい。でもこれで全然別の場所攻撃されたらまずいから、ローザとガブリエラに監視させているのさ」
大地能力を持つ二人は鳥やネズミと意思疎通し、周りに異変がないか調べていた。ちなみに緊急時には視界を共有することもできる。
金曜日にも試合があったので、また二班たちはスタジアムを監視した。だがその日も特になにもなかった。班員たちは少し疲れを感じてきたが、金曜日に襲撃が起こらない可能性がないわけではなかったので、見回りは不可欠だった。
そして土曜日が来た。キャサリンはいつもの仕事着を着て、ローザとともにスタジアムを南側から見ていた。たまにハトやカラスが飛んできて、ローザに現状を伝えた。
「え?」
5羽目のカラスがローザのもとに来て、なにかを言ったとき、彼女は声を漏らした。
「私と同じ能力を持つ人を感じるですって? どこに?」
カラスはついてくるよう合図し、二人は鳥を追った。それは交差点のところへ飛んでいく。
信号が緑になって歩いていく人々の中に、風変わりな服装をした男が一人。身長がかなり高く、まっすぐな長い茶色の髪はポニーテイルに結んである。
「ん?」
なにか異変を感じた彼が振り向くと、まっすぐ飛んでくるカラスと二人の少女の姿が見えた。目線がぶつかると、男はにぃっと口角を上げた。
「気づかれてしまったか。ならば行動を開始せねばな」
男は腕を下げて、地面を見つめた。
そのとき、地面が大きく揺れた。
「うわっ!」
キャサリンは思わず倒れてしまった。人々はパニックになって、その場に屈してしまった。他の都市よりは地震の発生しやすいロサンゼルスとはいえ、住人はこのような強い揺れには慣れていなかった。ローザはすぐに地面に手をつけて地震を止めようとしたが、相手がかなり強力なペストなのかうまくいかなかった。
男は笑ったまま、今度は腕を空へ向けた。今度は火の雨が降ってきた。
「っ!」
キャサリンはすぐに能力を発動した。
「水風・
真っ白な竜巻が上空を覆った。それは落ちてくる火を打ち消した。だが、全体は消せない。どう対処しようか必死に考えているときに、空が黒く染まった。ライラとアドハムが町全体に黒い靄をかけているのが見える。
キャサリンとローザは同時に敵を攻撃した。が、男はすぐに翼を出し、上へ逃げ、そのまま高層ビルの屋上に降り立った。キャサリンが舌打ちしたところで、トアンが火の能力をもったペスト特有のハチ型の羽で飛んできた。
「キャサリン、ローザ! あいつは俺たちがやる! お前らは向こうにいる火の能力のやつらをやれ!」
「了解!!」
二人はトアンに従った。まるで自分専用の模型であるかのように、ペストの男はビルからにやにやしながら街を見下ろした。
後ろから風の音がする。振り向くと、パーカーに布で口元を隠した人物が降り立った。その怒りに満ちたハシバミ色の目を、どこかで見たような気がした。
「おやまあ。ペストがペストに戦いを挑むとは」
軽く彼が笑った。相手は黙ったままパーカーのフードを外した。ハシバミ色の目と短く切った丁字茶色のカールした髪が風になびいた。顔だちは気品高く、端正で整っていて、頬は興奮と怒りで真っ赤に燃えていた。かたく決意した表情も併せ、彼女はまるでローマ神話の女神のようだった。
男はほんの一瞬見惚れた。そして思い出した。
「貴女は……、ミラノで逃したあの美しい少女に違いない。まさかこんなところで再会するとは……。ますます美に磨きがかかっている……素晴らしい……」
その言葉に相手は嫌悪で顔をしかめた。
「姉を殺したクソ野郎がッ……! お前はここで、私が殺す!!」
ミラは叫んで、戦う体勢をとった。
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