第97話 訓練
「能力を合体させるにはなにが必要か! それは想像力とお前らの絆だ! 相性が良くないとなにもできないぞ!」
トアンは呼びかけた。そこでキャサリンと翔が少し戸惑っていることを見抜く。
「よし、セレドニオ、ルーカス、手本を見せてやれ」
ヒスパニック系の少年とアフリカ系の少年が出てきて、班員たちから少し離れた。二人は顔を見合わせて頷いた。準備ができたようだ。
まず、セレドニオが手のひらから竜巻を発生させた。風が強く吹いて、他の人たちの髪を揺らした。そこでルーカスが人差し指を竜巻に入れ、炎を出した。火はまるで白いキャンバスに絵具をだんだん塗りたくるように、半透明だった竜巻を輝かせた。火災旋風ができたのだ。
「素晴らしいぞ!」
トアンは褒め称えた。
「見たかい? こんな風にして技は合体させるものだ。よし、じゃあお前たちペアを作ってやってみよう」
キャサリンはガブリエラと組んだ。言葉を発せない彼女だったが、彼女が複数能力者でキャサリンのと共通する風の能力を持っていたためか、風と大地の合体技を作るのはそこまで難しくなかった。
だが、問題は大地と水の複合技だった。翔と怜がその二つの能力を持っているとはいえ、彼らがその二つを合体させるところを見たことがなかった。能力のバランスが一番良かった翔と怜の姉、真莉がこの場にいたら話は違っていたかもしれないが。
水系の植物を出すことをガブリエラはやってみたが、それはうまくいかなかった。水中植物は水に浮いているため硬い茎を持たないので、敵をろくに拘束することもできない。二人は別の方法を探すしかなかった。
「うーん……ここにクリシュナがいたらいいのに……あの人なら生物に詳しいからなんか思いついてくれそうだな……」
ぶつぶつ呟いたキャサリンに賛同するように、ガブリエラは頷いた。黒茶色の髪をした少女は少し考えていたが、やがてなにかを思いついた。
彼女は地面に20㎝程度の植物を生やして、キャサリンの腕を引っ張った。
「なに? どうしたの、ガブリエラ?」
ガブリエラは葉の裏を見せた。なにかを伝えようとしているみたいだ。しかし、キャサリンにはぴんとこなかった。
「ああ、手話少し勉強しておけばよかった」
彼女は悲しそうに言ったが、ガブリエラは気にせず葉の裏になにかがあることを主張してくる。
「なんだろう、葉脈?」
ガブリエラは首を振った。
「葉の毛?」
ふたたび彼女は首を振った。二人の問答が始まる。
「色?」
「匂い?」
「気孔?」
そこでガブリエラは頷いた。
「気孔……気孔かぁ……」
生物で習ったことをキャサリンは必死に思い出そうとした。気孔は二酸化炭素とか酸素、水の交換をする小さい孔だけれども……。……ん? 水?
「もしかしてここから出る水を使うってこと?」
ガブリエラは満足した笑みを浮かべて、大きく頷いた。
「よし、やってみよう!」
二人は敵に模した150㎝の人形が立っているところへ行った。ガブリエラはキャサリンと目を合わせて、準備ができたことを伝えた。キャサリンは頷き返した。
ガブリエラは速いスピードで地面に手をつける。植物が生えてきて、人形を拘束した。
「水・凍結!」
そして次の瞬間キャサリンが気孔から出た水分を使って、人形を完全に凍らせた。普段空気中の水分を使って何かを凍らせるときより、速く簡単にできた。
「やった!」
二人は嬉しそうに笑いあった。
その後ペアを交換しながら訓練は続いたが、かなりうまくいったとキャサリンは感じた。
この訓練はのちのち、重要な意味を持つようになる。近い未来だったが、キャサリンはまだ知る由もなかった。
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