第96話 隠し通す
「そんな……!」
話を聞いたキャサリンは、ショックでかたまってしまった。
姉を目の前で燃やされ失う……。それはどんなに辛いことだろうか。どんなに悲しかっただろうか。
ふと浮かんだのはまだ8歳だった自分の兄。彼も同じような感じで……。
これ以上は考えまいと、キャサリンは頭を横に振った。
「だから二人はちょっとぎすぎすしているの。トアンはずっと気持ちを隠そうとしているけど、私たちは結局察しちゃったわけだし。ミラがもうちょっとくらい素直であればよかったのに、とは思わないことはないけど、あんな過去を経験すれば誰だってそうなってしまうわ。悲しいけどね……」
ローザは下を向いた。
重い話を聞いて緊張したせいか、喉が渇いたキャサリンは下に降りて行った。そこでソファに、ライアンが座っているのを見つける。彼はスケッチブックにぼんやりとなにかを描いていた。
キャサリンは後ろからそっと近づいて、それがなにかをちらっと見た。それは少女の絵だった。長いさらさらの髪を持った少女。彼女は両腕いっぱいに花を抱え、幸せそうに目を閉じて微笑んでいる。この子どこかで見たことがあるような……。
キャサリンはしばし記憶をたどっていたが、その絵に完全一致する少女を見つけた。ローザだ!
ライアンはローザのことがきっと好きなんだなぁ。キャサリンはふふっと笑った。
漏れてしまった笑い声にライアンは瞬時に反応した。
「キ、キャサリン?!」
彼はばっとスケッチブックを閉じたが、少女のにやにやとした笑みを見てすべてがバレてしまったことを悟った。彼は深いため息をついた。
「お願いだから彼女には言わないでくれ」
「んふふ、言うわけないでしょ!」
キャサリンは軽やかな笑い声を立てた。
「でもさっきの絵、とっても素敵だと思うよ!」
「うう……」
からかわれたフランスの少年は、少し唸った。二人が話しているところに、トアンと翔が入ってきた。楽しそうなキャサリンとライアンを見て、翔はなぜか気分が斜めになった。トアンは翔のまとう空気を察して、ゲラゲラと笑い始めた。
「そうかそうか! もうお前もそんな時期か!」
背中をばしばし叩かれて、翔は眉間にしわを寄せた。
キャサリンはトアンの騒ぎに気がついたが、それが一体何を意味するのかはわからなかった。
次の日、来る木曜日に備えるために、二班たちはフロスト社のペスト訓練場へ向かった。
「よし、お前ら。これからスタジアムでは試合がぽんぽん行われるようになるからな。訓練をするぞ!」
トアンはハキハキとして言った。
「相手が強力な火の能力者であることは間違いない。だから、ライアン、翔、キャサリンの力が重要になってくる。頼んだぞ」
三人は緊張した表情で頷いた。
「そしてより事態が厄介になるのは闇の能力者がいるときだ。奴らが敵を囲ってしまったら、我々はどうしようもできん。闇を消せるくらい強いペストなど、今のところ怜しか見たことがない。だからアドハムとライラがなんとかする必要がある」
「怜」という単語を聞いたとき、アドハムは少し不満そうな顔をした。二人はライバルだったからだ。
「まあ、いずれにしろ敵は強い。我々は三班のように複数能力者がうじゃうじゃいるわけじゃないから___」
そこでトアンはちらっと翔とキャサリンのほうを見た。まるで不公平だと言わんばかりの目つきだった。本当は社長とその側近がメンバーを決めるので、そっちに文句を言うべきなのだが。
「能力の合体技を多用しなければならない」
能力を合体させる方法……。三班はトアンが言った通り、複数能力所持者がたくさんいるので、あまりそういうことはやってこなかった。だが、オクサーナと戦った「神の僕」のメンバーもチームメイトで協力し合って、合体技を作っていた。
今後の戦いに役に立つものに違いない。キャサリンはトアンの話により集中した。
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