第93話 恋話
その夜食事が終わった後、班の女子メンバーたちは彼女たちの部屋にこもり、女子会を始めることにした。ミラベッラが今日の後片付けの当番だったので、彼女のみ部屋にいなかった。
「あー、もう!」
勝敗が決まったときキャサリンは諦めて、トランプのカードを放り出した。
「また負けちゃった! なんで私こんなにババ抜き弱いの?!」
「そりゃあ簡単よ」
ローザはくすくすと笑った。
「あなた全部表情にでちゃうもの。どのカードがジョーカーか、すぐにわかっちゃうわ」
「え?! 私そんなに表情変わる?!」
キャサリンは驚いて叫んだ。他の女の子たちは軽やかな笑い声をたてた。トランプを片付けた後、少女たちは次何するかを話しあった。
「ねえ、恋バナしない?」
ライラがいたずらっぽく目を光らせて提案した。
「こっ……?!」
あまりそういう話に慣れていないキャサリンは、びっくりして言葉を詰まらせた。
「あ、さてはその表情……キャサリン、好きな人いるでしょ!」
まるで名推理でもしたかのように、ライラが得意気に言った。キャサリンの顔はすぐに真っ赤になった。
「え?! いやっ……そんなっ……ちがっ」
そこでガブリエラがなにやら手話でローザに伝えてきた。
「ん? なになに? セレドニオが翔とキャサリンが手繋いで立ってたのを見かけたって?」
「いやあああああああ!!!!!」
昼の恥ずかしい出来事を暴露されてしまった哀れな金髪の少女は、それまで以上に真っ赤になり布団を被って顔を隠してしまった。
「もう、隠れないでよ。実際、翔のことはどう思っているの?」
ローザは少し笑ってから、キャサリンに尋ねた。緑色の目が優しく光った。キャサリンは少しだけ顔の一部を布団から出した。
「うーん……」
沈黙がしばし流れた。キャサリンの背中は熱くなったり、冷たくなったりした。幾多もある好奇な目で、皆から眺められた彼女はとうとう負けた。
「ああ……もう、わかったよ……うん……好きだよ」
「きゃああああああ!!!」
女子たちから歓声が上がった。キャサリンは恥ずかしすぎて、この場でそのまま消えたくなった。
「どこが特に好き?」
「初めて会ったときはどうだった?」
「デートとか行った?」
「将来付き合いたい?」
質問攻めにされたキャサリンだったが、ちゃんと一つずつ質問に答えた。
「好きなところはいろいろあるけど、いつも支えてくれるところと……目が綺麗なとこかな……。日向さんに連れられた任務で、安保隊に捕まりそうになったんだけど、そこで助けてもらったの。それが初めての出会い。デートはまだしたことない……。付き合うのは……当たり前だけど翔の気持ちしだいかな……」
「ロマンティックねー!」
ローズはかわいらしい笑みを浮かべた。ライラは目をキラキラさせて、自信ありげに言う。
「助けてくれたりするなら、相手もキャサリンのこと大事に思っているんじゃないのー?」
だが、キャサリンは自信なさげに目線を落とした。
「翔は皆に優しいし……そういう思わせぶりな行動は全部天然のせいなんだろうなって思う……」
「えー? そうなのー?」
「うん……。それに私はとりあえず今はおばあちゃんのためにお金稼がなきゃいけないから、恋愛はまだいいかな」
キャサリンの家族思いの発言に、少女たちは感動した。金髪の少女はそのすきを見逃さず、反撃の質問を返した。
「で、皆はどうなの?」
「んー、私とガブリエラは今は特には。ライラには一班に好きな人がいるのよ」
「ちょっとローザ!」
ライラは真っ赤になって怒ったが、茶髪の少女は特に気にする様子はない。どうやら普段からこうしてお互いをからかっているみたいだ。
「へえ、どんな人?」
キャサリンが興味を持ったので、少女はしぶしぶ話した。
「その人はトルコ出身で、私と同じ闇の力を持っているの。一歳年下なんだけど、すごくいい人だよ。問題はお兄ちゃんと仲悪いことかな……」
ライラは兄のアドハムの顔を思い出しながら、ため息をついた。キャサリンは同情しながらも、少しだけうらやましく思った。自分の兄もそばにいてほしかったから……。
ふと、キャサリンはトアンとミラベッラを思い出した。
「ねえ、その……班長さんとミラさんはどうなの? 恋愛関係……なの?」
キャサリンはささやき声で尋ねた。女の子たちはそれを聞いて、かたまってしまった。ローザはため息をつき、静かな口調で言った。
「あの二人は……まあ……とても複雑なのよ、キャサリン」
ローザが語りだしたミラベッラの過去は、キャサリンが思っていたよりも数倍辛いものだった。
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