第92話 気持ち
「ん……」
キャサリンが起きたのは、次の日の昼頃だった。彼女は今のソファに横たわっていた。一瞬彼女は自分がどこにいるのかわからなかったが、数秒で思い出した。
(昨日何があったんだっけ……)
ぼんやりと思い出そうとすると脳裏に浮かんだのは、あの敵の姿と痛い電気ショックだった。
(電気の力……ってことは火の能力の派生ってことかな……でもそんな技なんてあるのか?)
ゆっくりと身体を起こしたとき、彼女は近くの食卓で翔が頬杖をついたまま眠っているのに気がついた。隈はまだ完全には消えていなかったが、髪は完全にリラックスしているので茶色に戻っていた。
キャサリンは彼が起きないように、彼にそっと近づいた。長いまつ毛が目立った。いたずら心が湧きあがったせいか、キャサリンはちょんと、彼の頬に触れた。
「んん……」
翔は眠ったまま不機嫌な顔をしたので、キャサリンは思わず笑ってしまった。
彼女の笑い声のせいか、そこで翔は起きて目を開いた。それはキャサリンのとぶつかり、二人は数秒の間かたまった。
能力を発動しているときの翔の目も綺麗だったが、今の落ち着いた綺麗なとび色の瞳もなかなか美しかった。
そこでキャサリンは顔がとても近いという状況に気がついた。彼女は慌てて、姿勢をまっすぐのばした。翔は突然の彼女の動きに瞬きした。
「ご、ごめん! 起こしちゃって……」
キャサリンは謝った。
「いや。それよりもう大丈夫なのか?」
「え?」
「電気にやられたんだろう」
翔は心から心配していそうな表情をしていた。キャサリンは少し温かい気持ちになった。
「うん、大丈夫だよ。とっても元気!」
「よかった……」
翔はそう言ったものの、どこか疲れ切っているように見えた。
「ねえ、翔こそ……なんか悩んでいることとかない? 最近元気ないし、隈ひどいし……。もしかしてなにか思い詰めてる?」
翔はキャサリンをしばらく見つめた。それから小さく下を向き、ぼそっと呟いた。
「悩んでいる……かもな」
わずかな沈黙があった。
「たまに……自分が弱くてどうしようもない奴だって感じるときがあるんだ……」
キャサリンはわずかに目を見開いた。
「なんでそんなこと! 翔は強いよ!」
「どこが……」
「いつも私のこと、助けてくれるじゃない!」
彼女の淡い水色の目が、翔を貫いた。
「最初に会ったとき、初任務、そしてアイオロスのとき……私、たっくさん助けられてきたよ! 翔がいなかったら、私死んでいたかもしれない。弱いのは私のほうだよ! 自分のことを卑下しないで。私悲しくなっちゃうよ。だって翔は私にとって、大切な人なんだからね?」
翔はびっくりした表情を浮かべた。少しの間だけ音のない時間が過ぎた。キャサリンは自分の言ったことを反芻して、気がついた。
(あれ、もしかして私、今とてつもなく恥ずかしいこと言った?)
固まってしまった少女が面白かったのか、翔は思わずふふっと声を漏らして笑った。そこでキャサリンの心臓がトクンと鳴った。彼女は翔の笑顔に極端に弱かった。頬が熱くなる。
「ありがとう。元気が出てきたよ」
ふわりと優しい顔で言われ、キャサリンの心臓はますます速く動いた。彼の目がわずかに青色に変化した。なんて綺麗なんだろう。半分動かない思考で、キャサリンは思った。
翔はなにを思ったのか、立ち上がってキャサリンの手に触れた。少女は驚いて、小さく息を呑んだ。彼女は翔を見上げて彼の目を見つめたが、彼が何を考えているのかを読むことはできなかった。少年はなにかを言おうとして口を開いた。
だがそこで邪魔が入った。
「たっだいまー!!」
それはヒスパニック系の少年だった。彼は二人の姿を見るとかたまった。
「……あー、ごめん。邪魔した?」
翔は不機嫌に眉間にしわをよせ、低い声で目の前の少年の名を口に出した。
「セレドニオ……」
キャサリンは突然猛烈に恥ずかしくなり、翔の注意がそっちに向いた瞬間、女子部屋にものすごい勢い逃げてしまった。翔は一人取り残された。
「ああ……いや……ほんとごめん」
セレドニオは謝ったが、翔はイライラしたため息をついて終わった。
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