第88話 敵の影
まずは火の能力をもっている翔が入り、ある程度消火する。それから他の二人が入ってきて、完全に火を消すというプロセスで行動した。
辺りは真っ黒だったりいろいろ崩れていたりで、あまりなにが起こったのかはわからない。誰が火事を起こしたのか、どうしてそうしたのか、どうやって火をつけたのか、疑問は多かった。
逃げ遅れた人も多く、キャサリンたちは数回外まで彼らを運ばなければならなかった。ライアンによると、それは何者かによって火災報知器が壊されているかららしい。以前の火事とも共通している点はそこであり、だから同じ人がやっているのだということがわかったのだ。
「ん?」
移動している途中、翔がいきなりしゃがんだ。
「どうしたの?」
翔は黙って、小さな黒い謎の欠片を拾った。
「杉だな」
「え?」
「燃え尽きた杉の木だ。木炭になっている。つる植物も使われたみたいだな」
翔は壁を指で示した。確かに転々と植物の小さな跡がある。
「前の現場には?」
「……僕たちが確認したかぎりなかったよ」
目を伏せて、ライアンは言う。自分たちが見逃してしまったのではないかと、不安になったのだ。
「今まで火事が起こった場所はそこまで広くなかったんだろう? だから植物を使わなくても発火させることができた」
翔はあまり彼を気落ちさせないよう言葉を加えた。キャサリンはそこから、どのようなことが推測できるかを考える。
「つまり……敵は、大地能力と火の能力がある人?」
「その可能性は高い」
だいたい消火し終えたとき、サイレンが聞こえた。消防車が到着したのだ。
「やっとか」
翔は呆れたように呟いた。
「ずいぶん遅いな」
しかし、ライアンは自慢するかのようなにやにやした笑みを浮かべた。
「翔くんはわかってないですねー。わざと遅く来たんだよ」
彼は人差し指を、二人の目の前で振った。
「君たちが安保隊の訓練兵たちとつるんでるのと同じように、俺たちは消防団と繋がっているのさ。だからこうしてタイミングを合わせてから来るんだ」
「なるほど……」
残りは消防団に任せることにし、班長トアンは退却命令を出した。
「で、どうだ? 何か新しいものは見つけたか?」
拠点に戻り、トアンが尋ねると、ライアンは翔が見つけた証拠のことについて話した。
「なるほど……、植物に火をつけて燃やすんだな」
トアンの発言に、ミラベッラは何かを思い出したのか目を細めた。悲しみと憎悪がその瞳の中で踊っているのに、キャサリンは気がついた。
「まあ、この規模からして犯人は複数人だろうね」
黒人の少年が物事をまとめて言った。
「しかし、まだ敵とは遭遇してないんだよね。相当警戒心が強いんだな」
「ああ、だが必ずいつか尻尾を出す。そんときに、思いっきり叩けばいいんだ」
トアンは力強く、周りを励ますように言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます