第87話 火と闘う

「火事はここ最近ずっと起こっていたの?」


 キャサリンは緊張した状態の車内で、恐る恐る尋ねた。


「そうよ。ロサンゼルスのあちこちで、いろんな施設がランダムで燃やされるの。それで私たちが引っ張りだこにされているのよ。フロスト社のマンションに燃え移ったら大変なことになるからね」


 ローザが説明する。

 皆がマスクやフードを装着している間、車は道路を速いスピードで進んでいった。ロサンゼルスの街並みは高いビルが並んでいるところはニューヨークと一緒だとしても、雰囲気はかなり違った。

 周りは賑やかで、さまざまな色で染まっていた。道には南国の木が植えられ、店の看板はきらきらと輝いている。キャサリンは思わず景色に見とれた。


「綺麗……」


 小さく呟くと、トアンが嬉しそうに笑みを浮かべた。


「だろ? 夕方になるともっと美しいんだぜ!」


 ミラベッラはいつの間にか、バイクのヘルメットを外していて、かわりに他のメンバーと一緒のフードをすっぽり被っていた。マスクで顔全体は見えないものの、目が綺麗なハシバミ色ということはわかった。

 車内から見た空はずっと澄んだ青だったが、ある地点からだんだんと赤く染まっていった。黒い煙も見える。どうやら現場にかなり近づいたようだ。


「目立たないようにお願いしますよ、諸君!」


 班長は皆に呼びかけると、車両がたくさん止まっていたり、走っていたりしていたところに突っ込んでいき、なんとか避けて到着した。

 すぐに車から出て、まずは状況確認をする。


「アド、ライラ、ルーカス、お前たちは俺とともに中にいる人を救出する、セレドニオとミラはこれ以上炎が激しくならないように風を調節してくれ。ライアン、翔、キャサリンは火を止める。ローザとガブリエラは建物が崩れないようにする」


「あい!」


 班員たちは散らばった。


「こっちだ!」


 ライアンが主導になって、キャサリンと翔を導く。三人はショッピングセンターの中庭部分に入った。中は熱がこもっていて、煙が上がっていた。火の能力をもった翔は平気そうだったが、キャサリンとライアンは汗を垂らす。金髪の少女はズーハンと初めて会ったときのことを、ちらっと思い出した。


「さあ、さっさと消火しよう」


 ライアンは真剣な目で言った。彼はどんと地面に手をつける。


「水・空の恵みbénédictions du ciel!」


 突然、空が真っ黒に曇り、雨が降ってきた。


「待って、天候を変えたの?!」


 キャサリンは驚愕した。


「うん、そうだよ。五分くらいしか持続できないけれど」


 ライアンは当たり前のことのように淡々と答えた。


「でも、それってとてもすごいことじゃない?! 私できないよ、こんなこと」


ありがとうMerci。二月だったから運が良かった。夏とかはほんとに雨が降らないから、雨雲は生み出せなかっただろうね」


 マスクが息苦しくてほんの少しの間だけ外していた金髪の少年は、そのままにっこりと、太陽のような爽やかで綺麗な笑みを浮かべた。ライアンは相当のイケメンである。クラスにいたら確実に女子がきゃあきゃあ騒ぐ原因となるだろう。

 キャサリンは彼をイケメンとは認めたが、好みのタイプではなかった。。自分が好きになりそうなのは、もっと髪が長くて、冷静で、いろいろな色が混ざった綺麗な目をした……

 それが翔とぴったり当てはまると次の瞬間に理解したキャサリンは自分を殴りたくなった。当の本人はなぜか機嫌が悪いと言わんばかりの表情で、火を消していた。


 少し中の火が落ち着くと、今度は翔を先頭にして、三人は建物内部へ入っていった。


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