第86話 二班のメンバー

「ローザ! ガブリエラ!」


 トアンは階段をのぼりながら叫んだ。


「なに?」


 部屋の扉の一つが開き、綺麗な薄い茶色の髪をした少女が顔をのぞかせた。目は淡い緑色で、表情は柔らかい。


「援軍が来た。三班のキャサリンちゃんだ」


「あら、ほんとだわ。ガブリエラ!」


 少女は部屋の中にいた人物に声をかける。焦げ茶色の髪をした女の子が出てきた。目は明るい緑色で、どうやらヒスパニック系だ。彼女はキャサリンを見ると、手を小さく上げた。


「こんにちは、私はローザ・フローレス。カナダから来たの。こちらはガブリエラ・サアベドラよ。チリ系アメリカ人なの。話すことはできないから、手話で会話しているの」


「キャサリン・メルカド・ウィルソンです。お父さんがスペイン人なの。よろしくね!」


 二人の少女はにこやかに笑い返した。


「いいね! あ、そういえばミラは?」


「たぶん自分の部屋にこもっていると思う」


「了解」


 トアンは一番奥の部屋へ行く。そして、その扉をがちゃりと開けた。


「ミラちゃー「ドア開けるときはノックしろって言ってんだろうが!!」


 いきなり怒鳴り声が響いて、まくらが飛んできた。それは高速でトアンの顔面にあたり、彼は倒れた。部屋から出てきたのは、バイクのヘルメットを被った奇妙な人物。黒いT-シャツとジャージを着ていた。声からしておそらく女の人だ。


「デリカシーのない野郎だよ、まったく」


 それからその不思議な人はキャサリンのほうを向いた。しばし10秒程度、頭のてっぺんからつまさきまでじろじろ見つめる。


「ふーん、青か水色が似合うな」


「……え?」


「いてて、ひどいじゃないか、ミラ。そんなことしなくても……」


 トアンが床から上半身を上げた。


「あんたが全然言うこときかないからでしょ」


 そう言いながらも、ミラは自分の仲間が立ち上がるのを助けた。


「ちゃんと自己紹介しなよ」


 トアンに言われ、ふんと鼻を鳴らしながらもミラは言う。


「ミラベッラ・アンジェリコ。呼ぶときはミラでいい。故郷はイタリア。趣味はファッションデザイン。パスタにケチャップをかける奴は許さん。よろしく」


「キャサリン・メルカド・ウィルソンです……」


 金髪の少女は、ヘルメット頭と握手し、戸惑いながらも自分の名を述べた。なんでバイクのヘルメットを被っているのかと不思議に思ったが、いきなり尋ねるのも少し憚られた。

 トアンがキャサリンを次のメンバーのもとへ連れて行こうとして、階段を降りたとき、電話が鳴った。


「俺が行く!」


 班長の代わりに黒人の男の子が受話器に飛びついた。


「はい……はい……え? またか!」


 会話が終了すると、トアンは先ほどの愉快な調子とは打って変わって、鋭い目つきで尋ねる。


「なんだって、ルーカス?」


「また火事だ。近くにあるでっかいショッピングセンターが燃えてるんだってよ」


「まずいな、すぐ行こう! 全員を呼べ!」


「あい!」


 トアンの掛け声に班員たちが動き出す。慣れないキャサリンと翔には、トアンが別で支持を出した。

 家から出て、駐車場の行く。大きなワゴン車が用意され、総勢11人がそこに乗った。


「うわ、やっぱ人数増えるとギリギリだな」


 トアンは思わず呟く。


「違反で警察に捕まらない? 大丈夫?」


「まあ、なんとかなるだろ。行くぜ!」


 ローザの心配に楽観的に答えたトアンはアクセルを踏み、ワゴン車は重い音を立てて出発した。


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