第76話 修業と占い

 修業はその後二週間続いた。


 オクサーナはその期間で、キャサリンにさまざまな技を教えた。


 その中で一番強力なのではないかとキャサリンが思ったのは「凍てつく吐息frozen breath」という技である。息を吸い込み、口から大量の冷気と雪を吐き出すもので、怜の「風船葛」という技と同じ仕組みである。


 難しいのは雪と氷の量を増やす点で、オクサーナが広大な範囲を雪で数メートル埋めることができるとしたら、キャサリンは頑張って1メートル程度である。

 そこで彼女は威力自体を増すために、その技を風の能力と合わせることにした。風を竜巻のように回転させ、スピードも速める。能力が複数あるペストの強みは、合併技をすぐに創れることだろう。


 キャサリンはオクサーナの攻撃を見て、自分には才能がないのかと思い悩んだが、師匠はそれを否定した。彼女は言う。


「あなたは逆に成長する可能性がとてもあると思うわぁ。ペストになって半年だし、経験もまだ浅い。それなのにここまでできているのよ。もっと自信持ってもいいわぁ」


「ありがとうございます……」


 キャサリンは少しほっとして呟いた。


 イリーナはすっかり元気になり、キャサリンによく懐いた。キャサリンは彼女に英語を教えた。インチキなアメリカ英語ではなく(キャサリンの個人的な感想である)、正統なイギリス英語をだ。


 ヒューゴは大人しく過ごしていた。逃げることもなく、暴れることもなく。彼の語ったことは、やはり真実であったのだろう。寝るときは隣の部屋で寝ていたが、日中のほとんどはオクサーナたちの部屋で過ごした。だいたいキャサリンがイリーナと遊んでいる横で、ヒューゴとオクサーナはただソファに腰かけてぼそぼそと何かを話していることが多かった。


「そういえばヒューゴさんって占いやってたんですか?」


 ある日の夜、オクサーナがイリーナと一緒に出掛けていって、ヒューゴと自分しかいなかったときがあった。暇だったキャサリンは、ふと尋ねてみた。


「ん、ああ、そうだな。思考が読めるから、客の身の上を少し言えばあいつらは俺の占いを信じるようになる。そこでトランプを使って未来を適当に言えば完璧さ。評判は検索してみたらわかるが、結構いいぞ」


「ええ、じゃあ私にもやってみてください」


「え」


 ヒューゴは戸惑ったが、キャサリンはきらきらと目を輝かせている。結局断れずに、柑子色の髪をした青年は諦めて鞄からトランプを出した。


「ジプシーの予言と言われている未来占いをしてやろう。この占いは全てのマークのJ、Q、KとAしか使わない。生年月日を使うので教えてくれ」


「はい、2008年2月16日生まれです」


「では、まずそれを一つずつ分解して足してくれ」


「えーと、2+8+2+1+6だから、19ですね」


「ならば19回シャッフルする」


 慣れた手つきで青年は19回カードをシャッフルした。


「よし、次は19というさっきの数をまた一つずつ分解して足す。10になったな。10もまた分解して足す。そしたら1だ」


 ヒューゴは解説しながら、手に持っていたカードから一枚ぽん、とテーブルに置いた。キャサリンは恐る恐るカードを表にした。

 ハートのKだった。


「なるほど……。ハートのKの意味は『将来年上の男性に助けてもらう機会があるが、彼に振り回される恐れがある』という意味だ」


「年上の男性……?」


 キャサリンはうーん、と首を傾げて、三班のメンバーを思い浮かべた。ヴィルとか翔あたりは、確かにこの占いに当てはまりそうだと思った。実際現在進行形で、翔に振り回されているし。


「ま、俺は思考は読めても未来までは知らないからな。詳しいことはわからない」


 ヒューゴは肩をすくめて言った。


「いえ、楽しかったです。ありがとうございます!」


 キャサリンはカードを持ったまま、にこやかに笑った。

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