第75話 風に乗って
「オクサーナさん! なんでさっき殺しかけてきたんですか?! とても怖かったんですけど?!」
引き続き飛んでいたオクサーナに追いついたキャサリンは、聞こえるように大声で抗議した。なにしろ羽の音が大きい。まるで虫が飛ぶときような音だ。ペストが嫌われた原因はこの音のせいでもあるかもしれないと、キャサリンは昔思ったことがある。
「うふふ、ごめんなさいねぇ。でもこの方法が一番手っ取り早いのよ。子供に泳ぎ方を教えるときだって、いきなり海に放り投げて学ばさせるでしょう? 飛べなかったら私が助ける予定だったから大丈夫よ」
「全然大丈夫じゃなかったんですけど!!」
実際羽は生えてきたんだから結果オーライなのだが……。怖すぎる。
「まあまあ、許してくださいな。とりあえず飛び方を一通り教えるわぁ」
オクサーナは軽く謝り、次のステップに移った。
「数種類あるんだけど、そのときの状況と体力によって飛び方を変えるといいわぁ。まずは直線飛行。これは今の飛び方よ。羽を一定期間動かすだけでいいわぁ。足や手を体にくっつけて、空気抵抗をなくすとよりスピードが速くなるわよ」
キャサリンが言われた通りに手足を縮めると、確かに少し景色の動きが速くなった。
「そして波状飛行。羽ばたいて上昇して、休憩して降下する動きよ」
やってみたが、逆にきついような……。だが長時間追われているときには役に立つのかもしれない。
「私たちの羽は皮膚が硬くなってできたものだから、あまり丈夫じゃないの。だから上昇気流を使いながら飛ぶっていうのは結構難しいのよ。ただハチドリみたいに飛びながら止まったり、後ろに下がったりすることはできるわぁ」
「なるほど……。じゃああまり長時間飛行できないんじゃ……」
「その通りよ。でもキャサリンはぶっちゃけ羽がなくても飛べると思うわぁ。風の能力をもっているもの。飛び方も私なんかよりずっとうまいはずよ」
キャサリンは頷いた。同じ能力をもつリーナの飛び方を何回か見たことあるが、高速で羽を動かすことで、上下左右に向きを変えたり宙返りをしたりすることができる。三班の中で一番飛ぶのが上手だ。
「さぁ、最後に降り方よ。旋回しながらゆっくり降下するのが一番安全だわぁ」
オクサーナに続いて、キャサリンは地面に近づいて、最後はゆっくり着地した。
「はあい、よくできたわぁ。お疲れ様」
オクサーナはにこやかな笑みとともに激励した。
「よし、じゃあ能力を『解除』して」
キャサリンが髪色をもとの黒茶色に戻すと、ぱさりと羽が落ちた。見ると形はトンボのように長く、白と青、紫が混じった綺麗な色をしていて、月光に当たるとキラキラと光った。
「キャサリンの羽の色は水の能力者にしては暗いわねぇ。でもとても綺麗だわぁ。落ちた羽はとてももろいから、すぐに粉々にできるのよ。他の人にバレないように、踏んで片づけてしまいましょう」
パリパリと音を立てながら跡形もなくばらばらにした後、オクサーナはその上に雪をかけて完全に見えなくした。
「これで完璧だわぁ。じゃ、行きましょ。イリーナ」
オクサーナがずっと座っていた妹に声をかけると、彼女はちょこちょこと姉のそばに来た。
「飛んでるの見たよ、綺麗だった」
「あら、ありがとうねぇ」
オクサーナはふわりと笑った。妹の意識が戻ってから、彼女はずっと生き生きしているように見えた。
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