第70話 雪の力

 オクサーナは合わせた手を前に押しやって広げた。

 バリバリバリッと音を立てて、オクサーナとオレンジ髪の男、そして敵たちを囲むように氷の壁ができる。オクサーナの髪が白くなる。


「あなたも戦ってよ、恐ろしい力を持っているんでしょう?」


「幻影を見せることはできん。さっきで力を使いつくした。だが思考を読むことくらいならいけるぞ」


「よろしく頼むわ」


「は、こんな壁ごときで我々を抑えられると思うなよ!」


 男は言うと、火を吐いた。しかし、オクサーナは一息でそれを打ち消した。どうやらひとりではオクサーナに勝てないということがわかった神の僕のメンバーたちは、チームワークで攻撃し始めた。

 その場にいたのは5人だったが、風、火、水、大地、闇の力がそろっていた。まず大地属性が二人を拘束し、その後すぐに二人の男が前に出る。


「まずい、あいつら火と風を合わせるつもりだ」


 思考を読んだ捕虜が言う。オクサーナはそれを聞き、火災旋風が編み出された瞬間、ものすごい量の雪を息で吹き込む。少しの間、竜巻は赤と白が混ざったような色をしていたが、やがて火は消され旋風は消えた。2つの能力を合わせた技でさえ打ち消すことのできる彼女の力に、男たちは驚愕する。

 次にオクサーナが攻撃をしかける番だったが、闇の能力で抑えられる。


「なかなかやるわね」


 しかし、どっちも考えることは一緒だ。せまい。すぐそばに木や建物があるので、大規模な技が繰り出せないのだ。特に大きな技が得意なオクサーナにとって、それはマイナス点だ。


「広いところにおびき寄せよう」


 氷で閉じ込めたのは、キャサリンを逃す時間を作るためだったが、もうさすがに遠くへ逃げているだろう。そう言うと、オクサーナは造った氷の壁を自ら割った。彼女は男の手を引くとより広いところへ行こうと逃げ出した。


 男たちは彼らを倒そうとさまざまな技を出しながら追いかける。ただしその一人、大地の能力をもった男は違った。彼はオクサーナの予想に反して、遠くに長い金髪をもった少女がもう一人の女の子の手を引いて走っている姿に気が付いたのだ。男はそれが敵の仲間だということに気づいた。

 そいつらを人質にしたら、あいつも捕虜を諦めるだろう。

 そう考えた男は単独行動を始めた。



 だいぶ遠くへ離れたと思ったキャサリンは荒い息を整えるために一回止まる。


「もう大丈夫だよね」


 どことなくイリーナに語り掛けるようにキャサリンは呟いた。


「ふ、果たしてそれはどうかな」


 声がしたと思ったら、キャサリンが立っていた地面から植物が絡みついてきて、二人を拘束した。キャサリンはイリーナの手を握ったまま悲鳴を上げた。


「もう逃げられないな」


 前からペストマスクの男が歩いてきて笑った。


「ふざけるなっ」


 キャサリンは怒り、その影響で植物が凍る。だが、植物はどうやら丈の低い樹木だったようで、固い枝になった。


「残念だな、お前は捕らえられた」


 それから男はイリーナのほうをじろじろと見た。なにか変だとわかったのだろう。だが、彼はすぐに仕掛けを理解し、げらげらと笑い始めた。


「こいつ、葡萄月ヴァンデミエールさまの魔法で洗脳されているじゃないか! ならばすべての命令に従うはずだ」


 男は彼女を縛っていた植物を解き、こっちに来るよう言った。イリーナはそのまま男のほうへ向かう。


「イリーナ!」


 キャサリンは叫んだが無駄だった。絶対に彼女を敵に渡してはいけない。オクサーナに頼まれたからだ。


 ふと、キャサリンは雪を圧縮する魔力を思い出した。なんとか手のひらを下のほうに向けて、魔法をかける。

 ボサッと音を立てて、地面が低くなった。キャサリンは枝の罠から抜け出した。


「よし!」


 もう一度雪を縮ませて地面を作り、ペストマスクの男に駆け寄る。男は気づいて攻撃したが、キャサリンはなんとか避ける。

 雪の一つひとつの粒まで意識を巡らせて、キャサリンはそれらを自分の頭上にあげる。大量の雪が集まった。そこに風の魔法をねじ込む。リーナの技、日向から聞いた話とかつてリーナが自分にぶつけてきた「渦巻き」という技を参考にした、キャサリンだけの新しい技だ。


「水風・雪の渦巻きsnow vortex!」


 シュルシュルといった音を立てながら、白い平べったい渦巻きができる。キャサリンは新技を、イリーナには当たらないように調整してペスト仮面の男に投げた。

 男は地面を盛り上げて身を守ろうとするが、それさえも巻き込みながら渦巻きは進む。男は吹き飛ばされ、木に激突し気を失った。


「やった!」


 少女は勝利をかみしめた。彼女はイリーナを連れ、安全のためすぐにあのホテルへ戻った。


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