第67話 到着
「そのあと、明が亡くなったときに一個の巨大な班だったフェアリー団を三班に分けて、私とエレナは一班にまわされた。だから、真莉が行方不明になったときは翔くんたちのそばにいてやれなかった……。
イリーナはこの5年間ずっと命令されないと動けないままだった、ずっと。でもマダーさまが情報を仕入れてきてくれたのよ。どうやら人の意識や記憶に干渉できるぺストがいるらしいの。私たちを襲ったのはそういうペストの一人。そして今、同じ能力を持つ特別なペストを追っているの。その人にイリーナを治してもらうために」
オクサーナは呟いた。目線はぼんやりと上を向いている。
「そんな力をもったペストもいるのですね……」
キャサリンの言葉に、オクサーナは頷いた。
「不思議でしょう? でもマダー様だって十分他と違う能力をもっているから、この世の中にほかにも特別なペストがいたっておかしくないと思うわ。そういえば、話変わるけれど、翔くんたちとは仲いいの?」
「え」
少し思考が止まる。それから翔の笑みを思い出したキャサリンは少し赤くなって布団の中にもぐる。その反応になにか察したのかオクサーナは「あらあらあら」と呟いて笑った。
「もしかしてあれなの? 好きなの? 翔くん、かっこいいもんねぇ!」
「やめてください……」
キャサリンはゆでだこ状態だ。オクサーナはそんな彼女を見て、クスクスと笑った。キャサリンはむっと頬を膨らませる。
「ごめん、ごめん。面白くてつい。あの子は鈍感だからねぇ。あなたも苦労するわね」
「え、そんな、付き合うとか、別に……」
「あら、そう? お似合いだと思うわぁ」
「付き合う」という言葉にいろいろ想像してしまったキャサリンは、顔を冷やすためにぶんぶんと頭を振った。自分は今までの生活で手一杯で、今まで誰とも付き合ったこともないし、好きな人もできたこともないのだが。
「……オクサーナさんは好きな人とかいないんですか?」
「んー。今のところはいないわぁ。付き合ったこともないのよ。私はペストだから、人と恋愛なんてできないし。能力が消えない限り、なにもできないと思うわ」
オクサーナは困った調子でそう言い、時計を見た。
「もう12時かしら。寝たほうがいいわねぇ。おやすみね、キャサリンちゃん」
「おやすみなさい」
そのままオクサーナは明かりを消した。闇が部屋の中に広がり、キャサリンの瞼を閉じた。
次の日、キャサリンはオクサーナの話し声で目が覚めた。隣の乗客になにか確認をとっていたみたいだが、すぐ戻ってきた。
「おはよう、キャサリンちゃん。今は朝の六時よ。もうすぐイルクーツクに着くから準備してね」
キャサリンは着替え、髪をとかして身なりを整えた。窓にだんだんと街の風景が見えてくる。まぶしい朝日が車内を照らした。
イルクーツクについたのは朝の7:30だった。電車から降りて、雪の積もったホームを移動し、駅構内に入る。早朝だったが、人はかなりいて賑わっていた。
案内版のおかげで無事に駅から出ると、美しい街の風景が広がっていた。
「綺麗……」
思わずキャサリンは呟く。
「でしょう? イルクーツクは『シベリアのパリ』って言われているのよ」
オクサーナは微笑みながら言い、三人は鞄を持って、「呪い」を解くことのできるペストを追って近くのホテルに入った。
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