第64話 敵を追え
「雪というのは案外、なんでも創造できるものなの」
オクサーナは語る。
「子供たちだって、雪だるまとかなんでも作るでしょう? 雪は自在に姿を変えることができるの。雪は時には防御になり、時には武器となる。わかるかしら?」
彼女の問いかけに、キャサリンは頷いた。理解したならば、とでも言うように、そこでオクサーナは命令を下す。
「じゃあ、やってみましょう。雪は膨張することも逆に圧縮することもできる。私たちが歩いているこの道の雪を圧縮して、歩きやすくできないかしら?」
「え」
白い雪はどこまでも続いている。一体どこまで「道」を作ればいいのか。それをオクサーナに質問すると、「とりあえずできるところまででいいわぁ」と言われた。
キャサリンは手を冷たい地面に当て念じる。能力を全体に行き渡らせるよう意識した。
ボサァッと音を立てて、雪の高さが少し低くなる。だが、キャサリンが思ったほど、圧縮はされなかった。広さもたった直径6m程度。
落ち込む彼女をオクサーナは慰めた。
「そんなに悲しまなくてもいいのよぉ。これくらい行けたのなら結構いいほうだと思うわぁ。これの半分も行かない子もたくさんいるからねぇ」
今度はオクサーナ自身が地面に手を当てる。手本を見せるようだ。
「雪をうまく動かすのは、ひとつひとつの粒を意識することが大事だわぁ。だって水も水蒸気も結局ちいさなちいさな粒でできているんだからねぇ。これを覚えておけば、ほら!」
オクサーナが能力を発動させると、一気に数十メートル先の雪までが圧縮され綺麗な道を作る。キャサリンは思わず感嘆のため息をついた。
「すごい……」
「キャサリンちゃんもいずれこれくらいできるようになるわよ」
オクサーナは言ったが、キャサリン本人にとってはとてもそこまで成長できる気がしなかった。
ウラン・ウデ駅に着いたときにはもう太陽は沈んでいた。ウラン・ウデ駅は特別大きいというわけではなかったが、かなり清潔で整っていた。人々はロシア人というよりはモンゴル人のほうが多かった。
オクサーナはロシア語で、次のシベリア鉄道がいつくるか尋ねる。返ってきた答えは「22時39分」だった。
「少し待ちましょうねぇ。駅のホールで妹と待っててくれる? 食料を買ってくるわぁ」
オクサーナは購買まで出かけて行った。オクサーナの妹は微動だにしない。目には光がなく、まるで人形のようだ。結ばれた二つのおさげはときたま風に吹かれ、キャサリンのほうへ揺れた。日向はオクサーナが妹の「治し方」を探していると言っていたが、やはりなにかの病気なのだろうか。
そのとき、オクサーナが帰ってきて、キャサリンに温かい飲み物やお菓子、パンを渡した。
食べ終わったあと、荷物を駅員に預けたら案内に従って外へ出る。列車はすでにもう止まっていた。とても長く、先頭車両は見えない。
各車両に駅員がいて、パスポートとチケットを確認していた。キャサリンのパスポートはイギリス襲撃で(おそらく)木っ端みじんになったのと、オクサーナのは更新していなかったので賄賂でなんとか黙らせた。
キャサリンとオクサーナ、そしてオクサーナの妹は部屋に四つベッドがある二等車に行き、そこでベッドの下にある荷物を置く場所に、キャサリンのリュックを置いた。
もう夜遅かったので、寝る準備をしてベッドにもぐりこむ。オクサーナは「おやすみね」と妹にささやきながら、彼女を寝かせた。ふと景色が動き始めたと思ったら電車が発車した。線路を走るリズムは心地よく感じられる。いつの間にかキャサリンとオクサーナの会話が弾み、こそこそ話の女子会が始まった。
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