第63話 跡をたどる
「村が近くにあるからそこに行きましょう。そこでまだやり残したことがあるの」
オクサーナは歩き出し、キャサリンは彼女についていった。
水のペストとはいえども、雪の上はかなり歩きにくかった。一歩踏み出すたびに、白い地面が足を吞み込んでくる。
ロンドンに雪が降ることはほとんどない。一年に三回くらいだ。キャサリンにとってこの大量の雪は初めての体験だった。
相当慣れているのか普通の道を歩くのと変わらないように歩いていたオクサーナは、後ろを振り向いてキャサリンが遅れを取っていることに気が付いた。彼女は少女のところまで行き、手を貸してあげた。
「歩幅は小さめに。足裏を地面にしっかりつけるイメージで歩くといいわぁ」
どこかふわふわした話し方で、オクサーナは解説する。
「名前はキャサリンであってる? 確かイギリス人だったわよねぇ。 雪は初めて?」
「はい、ロンドンには全然降らないので……」
「あら、そうなのねぇ。でも本当にあなたは素敵なブリティッシュのアクセントをお持ちねぇ」
褒められたキャサリンは少し嬉しくなった。
しばらく歩いていると、乱れた白い風の中から村が見えてきた。あまり大きくはなく、木造の家が十数個のみしかたっていなかった。
そのうちの一つに三人のペストは入る。
「ごめんね、キャシーちゃん。本当は今すぐにでも飛び方を教えたいのだけれど、ここしばらくは難しいかもしれないわ。今敵を追っているの」
「大丈夫です! 力になれるよう頑張ります!」
「そう言われると嬉しいわぁ」
オクサーナはお日様のように温かい笑顔をキャサリンに向けた。
それから彼女は近くにおびえた表情をして立っていた老人に近寄った。オクサーナの声は急変し、柔らかいしゃべり方から、かたく、低い、真面目なものとなった。
「それで」
オクサーナはキャサリンには理解できない言語で、老人に話しかけた。
「先ほども話しましたけれど、私はその占い師をどうしても見つけなければなりません。どこに向かったか、お話ししてくれませんか?」
「し、知らない!」
「言うなと脅されたのですか?」
老人の顔が急変した。図星だったようだ。
「あいつは恐ろしい魔術を使う……! ワシが情報を言ってしまったら……あいつはまた……!」
「大丈夫ですよ、あなた。私が彼をボコしに行くんですから」
「いや、お前はわかっていない……」
「わかってないのはあなたのほうですよ」
オクサーナの目が青く光った。彼女は手のひらに魔力を集中させ、氷を創造する。
「私、軍から来たの。従わなきゃどうなるかわかるよね?」
ほとんどのロシアのペストは軍に所属しているので、この嘘はなんの違和感も感じさせない。
「……わ、わかった、わかった。教えるから……」
老人はさすがに怖くなったのか、口をもごもごと動かした。
「あの人はシベリア鉄道に乗ると言ってたんだ……。モスクワに行くのかと聞いたら『いや、金がなくてね。シベリアからは出られなさそうだ』とか笑っていた……。そのあと、情報を漏らしたことに気が付いたのか、恐ろしいものでワシを脅してきた……」
「なるほど……ならばあの人はウラン・ウデ駅に行ったのね。ありがとう、これでなにか買いなさい」
オクサーナは老人にルーブル札を渡してその家を出て行った。
「状況を説明するわぁ、キャサリンちゃん。昨日敵があの家で泊ったあと、シベリア鉄道へ乗って、おそらくイルクーツクにいったようなの。今からウラン・ウデへ行かなければならなくなってしまったわぁ。かなり歩くけど行けるかしら?」
「はい! もちろんです!」
「よかったぁ。じゃあ歩いている間に、雪の魔法を使うコツを教えてあげるわぁ」
オクサーナはニコニコしながら、優しい調子で言った。
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