雪と幻

第61話 修業の話

 12月になった。ニューヨークの気温は下がり、まれに雪が降る日々が続いていた。

 キャサリンは特に外へも行かず、家の中で過ごしていた。冬は水の能力をもったペスト以外活動する者はあまりいないので、任務へ行く頻度も減ってくる。いつも忙しいはずのアーベルも家にいる時間が増えるときが今の時期である。

 リーナはもっぱら部屋にこもってはアイオロスのクリスマスと新年用の曲についての相談を受けていた。他はいつも通り、何もなく過ごしていた。


「もうこんな時期ねぇ」


 日向は窓から真っ白な空を見上げながら呟いた。


「クリスマスのプレゼントは皆決まったの?」


「日向、俺もう子供じゃないよ」


「あらそう? じゃあプレゼントはいらないのかしら?」


「……パソコンが欲しい」


 怜の素直な答えに、最年長はふふっと笑った。


「キャサリンはどうかしら? 大人数でやるクリスマスは初めてじゃない?」


 少女はいきなり話題を振られて少し驚いたが、数秒考えてから答えた。


「羽……が欲しいかな」


「羽? ペストのってこと?」


「うん」


 キャサリンは一か月前に起こったズーハンの事件で、一人だけ飛べなかったことを思い返した。


「確かに、そろそろ飛ぶのを覚えさせる時期じゃないか?」


 いつもは黙っている翔が突然口を開いた。


「ついでに短期間の修行をさせてもっと力をつけさせたほうがいいと思う」


「んー、そうね」


 日向は片方の手を口にあてて考えた。


「誰がいいかしら?」


「キャサリンより年上で、水の能力の扱い方がうまい人は……まあ一人しかおらんな」


「一班所属、オクサーナ・ペトロブナ、か」


 ヴィルの言葉にアーベルがその者の名前をぼそりと言った。


「オクサーナ・ペトロブナ?」


 首を傾げたキャサリンに、翔が説明し始めた。


「フェアリー団一班所属のペストだ。もともとは三班にいたので、俺や怜、日向、アーベルと関りがあった。水の能力しか持っていないが、かなり強い。たぶん町一個を雪で飲み込めると思う。姉さんと同い年だったから18歳のはずだ」


「へぇー」


 キャサリンは頷いた。


「でも飛ぶのを習うんだったら風の能力者のほうがいいんじゃないの? 羽の形だって違うし」


「いや、案外飛ぶっていうのは能力間にあまり差はないんだ。技術はもちろんあるけど、それは飛んでいるうちに自ら学んでいくものなんだよ」


 彼女の疑問にアーベルは回答を出した。

 つまり、とりあえず飛ぶ方法といものを身につけさえすれば、あとは自然に飛び方のコツなどが学べるということなのだろう。


「今オクサーナどこにいるの?」


「数週間くらい前からロシアを放浪しているらしいのよ。どうやら妹の治し方を知っているペストが見つかったらしくて。キャサリンはいい助っ人になるんじゃないかしら。戦わなきゃいけなくなる場面はあるだろうし、そのときにオクサーナちゃんの技を見て学べばいいと思う。とりあえずマダー様に連絡するね。答えてくれればいいけど、まあ無理だったら飛行機で行くしかないね」


(妹……病気かなんかだろうか)


 いろいろ疑問に残ったことはあったが、キャサリンがそれを知るのはもう少し後のことだ。








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