第60話 残された者
「……」
怜の生い立ちについても少し情報が得られたけれども、思っていたよりも何倍も辛い話であった。両親に、恋人に、子供に残された彼女はどんな気持ちで生きていたのであろうか。
「こんなことがあったから、私はペストも安保隊も信用できなかった……。あなたも確か両親がペストによる火事で亡くなっているのよね……。私と一緒ね」
日向は慈しむような表情で、
「辛かったし、苦しかったでしょう?」
母親のような手つきに
「ありがとう……日向さん……」
「いいのよ。さ、もう帰ったほうがいいんじゃないかしら。もう夜遅いから」
「はい! メイソン、シャリー、行くよ」
「怜……。本当にありがとうね、怜と出会ってなければ、私……どうすればいいかわからなかった」
「お礼を言うならキャサリンだよ。あいつがお前を連れてきたんだろ。まあでも、またなにかあったら言えよ。俺がいつでも助けてやるからな」
「うん……」
「私、あなたと怜のこと応援するわ」
一連の流れを後ろで見ていたリーナが
「今度女子会でもしましょ」
キャサリンもそう言って笑った。
「うん……ありがとう。じゃあ……またね」
「またな!!!」
メイソンは元気に手を振った。ペストたちもそれに応えた。
これでやっと全てがもとどおりになったと日向たちは思った。が、そこで社長からの電話が来て、二時間説教された。
帰り道、三人はかたまって歩いた。
「ていうか本当にシャリーをそのまま返すつもりなのか、ズー」
「そうだよ、だってただの人間だよ? 殺せると思う?」
「なにさっきからこそこそしゃべってるの?」
シャリーの不満げな声に、二人はびくっとした。
「なななな、なんでもないよ!」
「明日の昼食についてしゃべってただけ!」
弁明する二人に、シャリーは首をかしげた。
安保隊の門についたとき、
「訓練兵がなに夜遅くまで外出してるんだ?」
「まだ七時でしょ」
「今日はペストによる変な事件が起きたばっかだぞ。気が緩んでるのか? 一人ひとり確認させてもらうぞ」
受付の人は
「おい……なんで……」
「しかし、なんで死んだっていう情報が広まったんですかね。おかしいですよね」
彼女はしゃあしゃあと言ってのけた。
「そんなことはありえない……!」
受付の人はぐいっとシャリーの腕を曲げた。
「痛い痛い痛い!!! 何をするんですか、離してください!」
おそらく彼はシャリーの事情を知っていて、能力が出るか試したのだろう。だが、何も起こらない。力はマダーによって封印されたのだから。彼は驚愕した。
「なにやってるの、もう検査はいいでしょ。はやく行かせて」
「いや、だが……」
「そこまでにしといてやれ」
陰から受付の人を止めたのは、別の安保隊員だった。鋭い目をしているが、いつも不気味な笑みを浮かべているゴーグルをかけた彼の名は……
「セシル・ブラウン……」
「『さん』くらいはつけてほしいよ。というのは置いといて、そこのお前。訓練兵をいじめるのはそこまでにしといてやれ」
「だが、しかし……」
「こいつらに別になんの問題もないだろ? なら大丈夫だ。早く寮へ戻りなさい、三人とも。明日もどうせ怠い訓練があるんだろ」
セシルは受付の人を抑えて、三人を中に行かせた。
「……ありがとうございます」
「どういたしましてだ」
安保隊本部からそれほど遠くないとある場所で、ひとつの低い声が響いた。
「そういえば先日のニュースをご覧になりましたか? あれはこのわたくしが仕掛けたものです。たった一発でしたけれども、あれだけで一体何人安保隊どもが死んだのか。本番が楽しみですね、んふふふふふ。しかし、これでもあなたはわたくしを12神官にしようとしないのですね。……はは、わたくしの女癖のせいだとおっしゃるのですか? ひどいですねぇ」
そのままそれは続けた。
「まあ、いずれはあなたにわたくしを認めさせるつもりですよ。なにしろ、わたくしには質のいい女ばかりではなく、頭のいい部下たちもいるのでねぇ。アメリカ中の安保隊の基地を壊滅状態に陥らせる。それが我々の目標なのです。ですから」
闇の中で彼の笑みが浮かんだ。
「わたくしの活躍をぜひ見ておいてくださいね、
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