第55話 対処

「ただいまー……ってパーカー、なんだその顔は」


 メイソンの顔がメイクと涙でぐちゃぐちゃになっているのを見たヴィルは思わず顔をしかめる。


「だっで、ジャリーがなおっだんだよおおおお、うううう」


 嗚咽するメイソンに、ペストたちは顔を見合わせて思わず笑ってしまった。


「まあ、私たちは治ることはないけどね。でも、よかった。仲間が救われて」


 日向は柔らかく微笑む。


「みんな……、本当にありがとう。あなたたちがいなかったら私どうすればいいかわからなかった。シャリーはそのまま死んじゃったかもしれなかった。本当は皆、私たちに恨みがいっぱいあると思う。それでも、敵であるはずの私たちを助けてくれた。本当に、本当にありがとう」


 紫涵ズーハンは目を涙でいっぱいにして感謝した。日向たちはそれににこりと笑って返す。


「安保隊一班と二班が遠征中だったのはほんと運が良かったよおおおお!!! いやああああ、ほんとにありがとうだぜ。俺たちの仲間を助けてくれて。もう、ほんとお前らは最高だよ!」


 メイソンはやっと泣き止んだのか、スムーズに言葉を紡いだ。しかし、そこで彼の腹の虫が大きな音をたてた。それに全員は笑ったり呆れたりした。


「ふふっ、今日は大変な一日だったものね。アリシアが料理作ってくれたから皆で食べましょう」


「う……ここは……?」


 そのときちょうどシャリーが起き、メイソンと紫涵ズーハンは彼女にすぐかけよった。


 シャリーはスープを飲んだあと、紫涵ズーハンから「爆発事故にあった後シャリーは治療を受けたが、麻酔の影響かなぜかいつの間にか安保隊から逃走した」と話された。「その後『紫涵ズーハンの友達』の家で保護された」という設定にしたのだ。


「え、治療……? 全然覚えていないわ」


「私もよくわかってないのよ。事故のショックで精神が乱れていたんじゃない? 記憶が混濁してると思う。でも、私の友達があなたを見つけてよかった! 私たちなんてあんたが死んだって知らされたんだから!」


「……」


 シャリーはあまり納得いってない感じであった。紫涵ズーハンの友達の話も聞いたことない。不安と警戒が混じった感情が募っていく。

 しかし、周りを見ていたシャーロットは、とある人物の顔を見たあと、そのもやもやした気持ちはあっというまに消え去った。その人物とは怜だった。病室で、紫涵ズーハンと話していた男の子だということを思い出したからである。


「あれ、あの子って病室にいた子よね……。え、もしかしてこれっておうちデート?」


「は?!」


 シャリーの発言に紫涵ズーハンは顔を真っ赤にしてかたまった。いずれにしろ、シャリーはこの後、警戒心なくほかのみんなと話せたのである。


 食事後、日向は紫涵ズーハンに心配そうに言った。


「どうするの、紫涵ズーハンちゃん。このまま安保隊に帰っちゃうの? もしまたシャリーになにかあったら……」


「心配してくれてありがとうございます、日向さん。でももう大丈夫。シャリーには能力はもうないんだから、殺すことはできません。証拠がないから。なにかあったら裁判で訴えてやります」


 強気で笑う紫涵ズーハンだが、日向はまだ危惧しているようだ。


「なにかあったら、ここへ来るのよ」


「ありがとうございます。……あと、もし、安保隊が日向さんたちを殺そうとしたら絶対に私が守りますからね」


「……心強いわね」


 日向はふわりと笑みを浮かべる。その笑顔は少し寂しそうにも見えた。紫涵ズーハンは少し間をおいてから、日向に尋ねた。


「日向さん、明さんっていったいどんな人だったんですか?」


 日向はびっくりして、紫涵ズーハン をまじまじと見つめた。


「あ、いや、別に嫌なら全然いいんです。トラウマでしょうし……」


 純粋に興味を持っただけだ。怜を育てた人物がどのような人であったか、ということに。


「ううん、ちょっとびっくりしただけよ。そんなこと聞かれると思わなかったから。そうね、最初っから話すのが一番わかりやすいのかしら。明と会ったのは東京襲撃の日よ。今から七年前、私がまだ18歳だったとき……」


 日向は遠くを見るような目をしながら、静かに語り始めた。

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