第52話 作戦開始

 シャリー救出作戦日、マダーは早朝に隠れ家に到着した。班員は集まり、作戦をもう一度確認した。


「よし、いいか。すべて話し合った通りだぞ」


 ヴィリアミは強い声音で、他に注意した。


「パーカー、最初の部分はお前にかかっているからな。失敗するんじゃねえよ」


「俺が失敗するわけないだろ、舐めてんの」


 ヴィルとメイソンは睨みあった。他の者は、目を呆れたようにくるりと動かした。キャサリンは昨日、どのようにしてメイソンが最初の行動をとる者となったかの過程を思い出した。


「ルイスは地下にいることは確実。そして処刑場までは数人の正式な安保隊に連れられて移動するのか」


 ヴィルは悩んだ。


「だが、処刑場に行く途中、どうやってルイスを奴らからかっさらうんだ? すべてが安保隊本部の敷地内にあるんだから、俺たちは入れねえ。しかし、誰かにルイスを外に連れ出さないと、俺たちは何もできないままになる。マダーの瞬間移動だって無敵じゃない。あいつらが一斉に攻撃してきたら、マダーが無事でもシャリーが死ぬ可能性がある」


「でも政府に認められてるんでしょ、大丈夫じゃない?」


 メイソンの発言に紫涵ズーハンたちは頭を抱え、ヴィルは呆れを通り越したのか無表情になった。


「あのなぁ、いくら俺たちが政府に認められたといえど、いきなり本部にやってきて『そのペストくださーい』って言ったら渡してくれると思うか? お前らの教官怪しむに決まってるだろ」


「うーん……」


 メイソンはなるほどというようにうなずいた。


「政府の許可とかはもらえないの?」


「無理だ。一週間はかかるし、あいつら簡単にはくれないぞ」


「なるほど……」


 紫涵ズーハンが適当に作った言い訳に合わせる感じで、ヴィルは答えた。紫涵ズーハンはこき下ろしていたけれども、案外こいつは馬鹿ではないような気がするとも彼は思った。


「じゃあさ、俺がやるか? それ」


「何を?」


「シャリーを連れ出す役」


「いったいどうやってだ。お前はただの訓練兵だろ」


「俺、変装得意なんだ。だから、そこらへんの安保隊くらい余裕で変身できる」


「それが成功すると思ってんのか?」


「さあ。でもやってみないとわからないよ。ていうか腹減ったわ」


 という感じで決まったのであり、正直他のペストたちは少し不安に思っていた。


「まあ、あいつやるときはやるから……きっと大丈夫だよ」


 ズーハンはそんな彼らを安心させようとしたのかそのような言葉を発した。




 本部に戻ったメイソンはさっそく行動を始めた。まず、もともともらってあった父親の昔の安保隊の隊員服を着用。ばったりドロテオに会わないように、トイレの個室の中で変装を始める。

 さあて、キャラはなににしよう。架空の新人隊員がいいな。集めていたメイクアップ道具を取り出し、入念に化粧していく。みるみるうちにメイソンの顔が消え、別の特徴も特にない男に変身した。厚底の靴を履いて身長をごまかし、最後に髪をスプレーで染めたら完成だ。


「うん、いい感じぃ」


 メイソンはなにもなかったように、トイレから出て足早に正式隊員たちがいるところへ向かった。エレベーターで降りる前に、仲間にメッセージを送った。


 よし、そろそろ来るはずだ。


 エレベーターからちょうど降りたとき、メイソンは数人の隊員がやつれた金髪の少女を連れながら、独房を閉め終わったところだった。そのとき突然地面が揺れた。


「なんだ?! 地震か?!」


 安保隊員たちは驚いて、天井を見上げた。そのうちの二人くらいは新人なのか、パニック気味になり始めた。


「おい! 命をかえても人民を守る安保隊が地震にビビるということがあっていいのか!」


 先輩は怒鳴ったが、新人たちはまだ震えていた。揺れはおさまらず、どんどん強くなってきている。一つ上の階では、どたどたというたくさんの足音が聞こえて、とんでもないことになっているのが察せられた。


「班長!」


 上から一人の隊員が降りてきた。


「どうした?!」


「上空に大量のペストたちが現れました! それから地下四階で水道管の破裂が起こったようで、浸水しています!」


「何?!」


「え」


 その場にいたメイソンも思わず声を出した。まさか施設がこんなにボロボロとは。確かにニューヨークは地震が滅多にないとはいえ、これ、大丈夫なのか?

 班長と呼ばれた男はどうすべきか悩んでいる様子だった。最初っから混乱に乗じてしれっと入る計画ではいたが、なるほど今がチャンスだ。


「先輩、俺こいつを部屋に戻して他の確認もするんで、早く水道とペストをどうにかしたほうがいいっす。こっちも水浸しになったらたまったもんじゃないんで」


 班長はメイソンの言葉にうむと頷いた。


「わかった。では俺たちは行ってくるぞ。お前らついてこい!」


 そのまま班長は、班員たちを連れていった。残されたメイソンはにやっと笑って、ぐったりしているシャリーを抱きかかえた。それから電話をマダーたちのところへかけた。


「もう来ていいよ」


 数十秒後、マダーが風と共に現れ、すぐにシャリーとメイソンを隠れ家まで移動させた。隠れ家ではズーハンが待機していて、すぐにシャリーの介抱に向かった。


「よかった……!」


 紫涵ズーハンはシャリーの冷たい手を握り、涙があふれそうになりながら感謝した。


「ありがとう、マダーさん……」


「うふふ、当たり前のことをしただけよ。これで一番の問題点は解決したわね。あとは子供たちが安保隊から逃げられるかどうかよ……」


 マダーはいつでも班員たちの動きが見られるよう、ペストたちの位置が赤い点で示されているパソコンの画面を見た。

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