第49話 疑い

 ここはどこだろう

 なにがあったんだろう

 なんでしもがかべいちめんについてるのだろう

 おなかすいた


 おかあさん、おとうさん

 ズー、メイソン、ドロテオ……


 たすけて……




「その、質問なんですけど」


 その後、ペストたちの自己紹介が終わった後、紫涵ズーハンは部屋の中でペストたちと話していた。その中で、彼女は恐る恐るこうきいてみた。


「シャリーを助けたあとってどうすればいいですか? ブラジルとかに連れて行けばいいのかな……」


「それは能力の強さによるよ。あとタメで大丈夫だよ」


 アリシアは答えた。


「能力があまり強くなければ消すこともできる。つまり通常の人間に戻せる方法があるの」


「戻す……?! どうやって?!」


「ある特殊なペストがいるの。不老不死なのに加え、他のペストが持つ能力を消せる能力を持つ。私たちは彼女をマダーと呼ぶ」


「不老不死…?!」


 紫涵ズーハンは信じられないと言ったようなような顔をした。


「うん、もう100年以上は生きてるって聞いたよ。頭を銃で撃たれても死なないって言ってた。私たちを助けてくれたのも彼女なの」


「でも、あなたたちの能力は消せなかったのね……。その、『マダー』っていう人の能力を使えば、ペストになる人の数はぐっと減るんじゃないかな」


「そうね、でもそれは難しいの。マダーは一人しかいないから。彼女は普段ペストになった人を助けるために世界中を旅しているのよ。瞬間移動の能力が使えるから、どんなところでも一秒あれば行けちゃうの」


 日向が微笑みながら追加した。


「いまマダーに連絡したところよ。明後日には来るって言ってた」


「ありがとうございます……」


 紫涵ズーハンはペコリと頭を下げた。


「すみません、寮の門限が20時までなので帰っても大丈夫ですか?」


「もちろんよ、紫涵ズーハンちゃん。明日また話し合いましょう。怜、ヴィル、彼女を送ってあげて」


「オッケー」


 暗い夜道、三人は並んで歩く。紫涵ズーハンはそこで恐る恐る怜に尋ねる。


「ね、そういえばさ……、ケ……怜にとってあの子ってどんな関係なの?」


「ん? どの子?」


「ほら、あの……茶髪で、青い目のかわいい子」


「キャサリンか? んー、どうだろ。双子の片割れ……みたいな?」


「ふ、双子?」


紫涵ズーハンは怜の答えに少し困惑する。


「うん、なんかおっちょこちょいだし、あいつ面白いよ。特にお兄ちゃんと一緒にいるとき。顔が赤くなって、もっとドジっ子になるんだぜ! なのにお兄ちゃん、全然気がつかないんだよなー」


ぱっとそこで少女の顔が明るくなった。キャサリンは怜の彼女なんかじゃない! 彼女が好きなのはお兄さんのほうなんだ!

そんな紫涵ズーハンの変化に気がつかない怜に、ヴィリアミは呆れかえる。人のことをまったく言えない状態である。


「よし、ここまででいいよね」


安保隊の寮の近くに来たとき、少年は言う。


「うん、ありがとう」


「処刑経路について聞くの忘れるなよ」


「はい、もちろんです」


 紫涵ズーハンは部屋に戻っていく。

(今日はたくさん話せたなー)と親友が危機にいるのにも関わらず、緩い気分になっているのに自覚して、彼女は自分の頬をパチパチと叩いた。

 寮のホールに一人の少年の姿が見えた。光に照らされた彼の髪の毛は赤く輝いた。なぜか表情は固く、不機嫌だった。


「あれ、メイソン?」


紫涵ズーハン、今までどこにいたんだ?」


「ああ、その、散歩に行ってたの」


「ふうん」


 彼は信用してないというように鼻を鳴らした。


「そしてそのあと、他人の家に入ったのか」


「?!」


 紫涵ズーハンはどうにかしてやりすごそうと言い訳を考えていたが、言う前にメイソンがやれやれといった風に言葉を続けた。


「俺は幼いころから親から変装と尾行の訓練を受けてきた。気づかれないままお前についていくのはすげえ簡単だぜ。それで、あの茶髪の女、アジア人の男、白人の男は誰だ? 一体何を話してたんだ?」


「ただの友達だよ! なんでそんなお母さんみたいに疑うの?」


「お前がシャリーの両親に会う予定をキャンセルしてまで会いに行く連中がただの友達なわけないだろ! 中国の教えはどうした?! 親コーコーとかいう」


 親孝行ね、と紫涵ズーハンは訂正したが、彼は尋問を続けた。


「なあ、言えよ。なんか秘密があるんだろ」


「……」


 紫涵ズーハンは答えられなかった。自分が裏切り者などと。どうすればいいのだろう。メイスは頭はそこまでよくないが、第六感というか勘はかなり鋭い。

 どこまでごまかせるのか……。こうなったら最後の手段だ。賭けに、出るしかない。少女は決心した。


「私、違和感を感じているの」


 紫涵ズーハンはまっすぐ彼を見つめた。


「シャリーの死について」







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