第46話 敵か味方か

 キャサリンは家族の墓(仮)参りへ行く途中だった。もちろんアメリカの墓地には自分の両親の墓があるわけないので、ただただ木の下に花を置いていくだけだ。けれどもイギリスにいたころからの習慣を、キャサリンは辞めたくなかったのだ。

 そこでいきなり10㎝以上も自分より小さな少女から抱きつかれ、彼女は完全に困惑してしまった。キャサリンは紫涵ズーハンの肩を掴んで、彼女の身を自分から引きはがした。ペストの少女は何かを言おうとして口を開いたが、相手が涙を流しているのを見てまた驚いた。


「あなた、大丈夫? 一体なにがあったの?」


「わた、私っ……」


 息も絶え絶えな少女の顔をじっと見つめるキャサリン。彼女の目を見て思い出す。


「あなた……もしかして安保隊の子?」


 あの火事で救った……。怜がしばらくその子のところ通ってたけど、数週間前にはもうやめたはず。まさかぼろをだして、私たちが一体何者なのかバレてしまったの?!

 キャサリンの身体から少し冷気が出た。髪こそ金髪にはなっていないが、警戒して能力の一部が出てしまったのだ。紫涵ズーハンは彼女が怪しんでいることを察し、慌てて説得する。


「ち、違うの! ただ話を聞いてほしくて……」


 紫涵ズーハンは声を小さくし、これが周囲にあまり聞いてほしくない会話だということを遠回しに伝える。キャサリンはそれを理解し、彼女を連れて裏路地へ行く。緑色の大きなコンテナのようなゴミ箱の横で、キャサリンは腕を組み、紫涵ズーハンに自分が聞く態勢が準備できたことを示した。


「で、なにがほしいの?」


 まだ警戒しながら、キャサリンは彼女に尋ねた。


「ケイ……ケイがどこにいるのか知りたい……」


「ケイ? 誰なの、それ」


「えっ」


 紫涵ズーハンはそこで彼が「ケイ」という名前は偽名であるということを言ったのを思い出した。


「あの、アジア人で、髪が黒っぽくて、目が大きくて、背が小さい……」


 キャサリンはそれが怜だと理解したが、まだ眉間にしわをよせたまま、次の質問に移った。


「で、その人になんの用があるの?」


「え……あの……」


 紫涵ズーハンには確信がなかった。この子もペストなのか、それともただの人間の友達なのか。親しげにしていたから可能性は低いとはいえ、後者であれば、ケイは通報されてしまうかもしれない。確認しなければならない。紫涵ズーハンは一つの手段を使うことにした。

 彼女は足でキャサリンの体をひっくり返し、すぐに銃を彼女につきつけようとした。だが、キャサリンもすぐに彼女の銃と足を凍らせ、動けないようにした。


「やっぱり」


 紫涵ズーハンはそう言い、ピストルを捨てた。


「あなたもケイと同じ、ペストなんだね」


「ケイと同じ……? ケイがペストなの、なんで知ってるの?」


「それは後で話す。今、急いでるの。私の安保隊員の友達がペストになった。あと数日で彼女は殺されてしまう。私はそれを阻止したい。きっとあなたたちペストならなにか方法を思いつくはず。あなたの仲間のところに連れて行って」


 目を鋭く光らせながら、彼女は言った。


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