第45話 救いを求めて

 紫涵ズーハンたちは仲間が亡くなったことを考慮されてか、数日の休日が与えられた。紫涵ズーハンはメイソンやドロテオのように家へ帰ったり、部屋にこもったりはしなかった。逆だった。彼女は動き回った。まずは教官に、シャーロットの葬式がいつなのかを尋ねた。彼はどもった。


「数日後……なんじゃないか?いろいろあると思うし……。そもそもあの爆発はペストが起こしたものなのだ。だから……いろいろ調査しなきゃあいけないんだ」


 希望はあるな……と少女は思った。葬式の日程がまともに言えないということは、まだシャリーは殺されていないということだ。死体解剖とかはないだろう。なぜなら脈は大丈夫だったからだ。医療もちゃんと学んでよかった……と紫涵ズーハンは思った。


 次に紫涵ズーハンは、情報を集めるために彼女は安保隊員たちが自由に利用できるデーターベースにアクセスした。ニューヨークを選択し、危険度に分けられてリストアップされたペストたちを見る。


(ケイの能力は炎、大地、そして水。だからランクは結構上だろうな……)


 とりあえず、2番目に危険なランクのAを開き、ひとつずつ見ていくと、ペストにさまざまなニックネームがつけられていることを知る。


黒烏ブラック・クロウ……大地、2020年登録、雪の女王スノウ・クイーン……水、これも2020年登録……緑の目グリーン・アイ……能力は……大地、火……水を使うとの目撃情報もあり……もしかしてこれ……?」


 紫涵ズーハンはそのページを開き、詳細を知ろうとする。


「2020年登録。身長は約5.5フィート(165cm)。能力を多種多様に使う。グループで行動することもあり。目は鮮やかな緑色で、目線のみで植物を操ることができる。性別は女性だと思われる……」


 別の人だ……と紫涵ズーハンは気が付く。第一、ケイはもうちょっと身長が低いはずだ。もう少しページを進むと、2021年に登録された炎の悪魔デビル・オブ・ザ・ファイアがあった。身長はぴったり。詳細には「他の能力も所有しているが、炎が最も強力であり、その威力は今まで記録に残ってきたペストでも最大といっても過言ではない」と書かれていた。


「これだ」


 紫涵ズーハンは確信する。やっぱりこのあたりに住んでいるんだ。問題はどうやって探すかだ。とりあえず、ケイが行きそうなところをしぼりこんでみる。


「ケイは日本人だし、和食が好きなのは間違いないはず。だからすしとかラーメン屋いって探すしかない」


 ひどくあいまいな捜索だった。でもあまり騒ぎ立てると、彼がペストだということが世間に明かされてしまい、とんでもないことになるかもしれない。


 紫涵ズーハンはそのままあちこち走り回って、ケイの情報を求めた。だが、思ったようには見つからない。もう10店舗程度まわったが、何もなかった。店員に尋ねても、困惑されるか、警戒されるかのどちらかだった。


「もしかしてペストだから店行かないのかな……」


 そもそものステップを間違えていたか。


「はあ……どうしよう……」


 紫涵ズーハンはいつのまにか墓地に着き、疲れ果てて座り込んだ。きれいな赤が空を染めている。

 シャリーは今頃、安保隊の地下何メートルも下にあるペスト用の狭い暗い部屋で、殺されているのを待っているのだろうか。あと数日しかない。なんとかしないといけない、ことはわかっているが、なんの打開策もないのだ。ケイがダメであれば、自分が特攻するしかない。しかし、ただの訓練兵が、他の安保隊員に勝てるのだろうか。いいや、無理だ。


 月が東に見えた。風が吹き、それが歩いてきた少女の長い髪の毛をなびかせた。栗色の髪だ。手には淡い色の花をもち、目は丸い輝くような薄い青色。紫涵ズーハンはぼんやりと彼女を見つめた。


 そして、ふと思い出した。


 この女の子、ケイと一緒にいた子だ。病室に来て、ケイを連れて行った子だ。間違いない。この子なら、ケイがどこにいるか知っているはず!!


「あの……!」


 紫涵ズーハンは立ち上がり、彼女にかけよった。そして、バランスを崩し、彼女によりかかった。茶髪の少女はその丸い目をさらにまあるくした。紫涵ズーハンは何か言おうとしたが、出たのは悲痛な叫び声だけだった。


「お願い……! 助けて!!!」








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