第36話 トラックでの戦い

「ん……?」


 数分かなりの上空を飛んでいた翔は、自分の腕につけていた機器で何かを見つけたのか目を細めた。


「どうしたの、兄さん」


「目標が見つかった。丁度この下だが見えるか?」


 兄より視力がいい怜は、旋回して少しずつ下に降りながら、車両を観察した。


「あのトラック?」


「ああ、そうだ」


「オケイ」


 二人は急降下し、そのトラックの上にポンと飛び乗った。怜が落ちそうになり、翔が彼の服を掴む。


「気をつけろ……」


「うん、ごめん」


 怜は後ろの車の運転手が、いきなり空から降りてきた人たちに驚いて、あんぐり口を開けていることに気が付いた。少年は苦笑いしながら手を振った。仕事をするときには基本黒マスクにフードをつけているため、正体がバレることはない。


「開けるよ」


 怜はトラックにかかっている鍵に、小さいが高温の、青い炎をぶつけた。それから植物の能力で完全に扉を開いた。


「俺は運転手をやるから、お前はそっちの扉のほうをやれ」


「了解」


 二人は一瞬でそれぞれの場所に移った。翔は足で助手席の扉を開け、中に飛び込む。運転をしていたのは、金髪の男。いきなりやってきた相手に驚き、目を見開いた。その目は青々と光る。


 ペストだな……


 翔はがしっとハンドルを掴んだ。男は怒り、相手の腕を引きはがそうとした。しかし、なかなかそれはできず、取っ組み合いが始まった。


 怜はトラック内に入った。楽器や電子機器などの荷物がいっぱいだ。奥から扉が開いたことに気が付いた女が立ち上がり、怜を見つけて悲鳴をあげた。少年はそこで縛られた数人の人物も見た。


 アイオロスの仲間だ!


「なんなのよ、あんた!」


 女が風の能力で攻撃してきた。怜は瞬時に避けるために、再びトラックの上に飛び乗った。翔が繰り広げている取っ組み合いのせいか、トラックがガタガタと揺れた。やっとのことでバランスをとる。そこで彼の黒い瞳に移ったのは、自分たちの車と仲間のアーベルとキャサリン。


「師匠ゥゥゥッ!」


 少年は思わず、姉がかつて使っていたアーベルの呼称を叫んだ。二人の姿は後ろに流されていく。敵の女が追いかけて、怜と同じ舞台にたつ。


「あんたは逃さない!」


 風の能力がない怜には彼女の攻撃を打ち消すことはできない。炎で攻撃したかったが、暴風の中ではやりにくい。この乗り物のスピードも相まって、この場に立っているのがやっとだ。


「苦戦しているみたいだね」


 アーベルは前方の戦いを見て言った。


「キャサリン、助けてやることはできるかい?」


「もちろんです。……でもどうするのが一番いいですか?」


「ただ敵を凍らせるだけで効果あると思うよ。狙うのは難しいと思うけど、君ならできるだろう」


「はい、頑張ります……!」


 キャサリンは車窓から顔を出し、敵に向かって手を伸ばした。


「水・氷矢the ice arrow!」

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