第34話 アクション

 外にはアーベルが用意していた車が止まっていた。


「はいはい、みんな乗り込んで!」


 キャサリン含めた三人は、いそいそと少し埃っぽい車内に乗った。エンジンをかけ、黒い車は発車する。


「数キロは走らなきゃいけないかも」


「なんでそんなことわかるの?」


 キャサリンは困惑した。


「フロスト社の人工衛星だよ。それでアイオロスの仲間の車の位置がわかる」


「え……」


 プライバシーもなにもない。金の力さえあれば、やっぱりなんでもできてしまうものだろうか。


「間に合うの?」


 怜は眉をあげ、アーベルに尋ねた。


「無理だね。だから、怜と翔は飛んでいいよ」


「と、飛ぶ?」


「おっしゃ、やるぜ!」


 怜が羽を伸ばしたため、車内が黒と赤の美しい模様でいっぱいになった。彼はそのまま車の扉を開けた。


「ちょ、そこから出るつもり?!」


「じゃないと間に合わないもん!」


「安保隊は?!」


「俺そんな簡単に捕まんないから大丈夫だよ」


 怜軽く笑い、それから植物の魔法を使い自身の身体をちょっとずつ車外に出した。車の速度で、彼の身体が地面と平行になる。


「いくぞ!」


 そのまま、彼は手を離し、身体が空に上昇した。そのつぎに、翔が白水晶とサファイアでできたような羽を出し、怜と同じ方法で車外に出た。


「空は渋滞がないからねー、僕たちより早くつくよ」


 アーベルが言った。


「でも、僕たちも急がなきゃね。シートベルトしめているよね。つかまって」


「え?」


 いきなり、赤褐色の髪色をした青年は、ハンドルを思いっきり回し、道路のひび割れの間から生やした植物で車を押し出した。橋にいた車は橋の柵から飛び出し、真っ黒な海の中に沈んだ。


「ぎゃああああああ!!!」


 キャサリンは女子ならば絶対に出さないであろう叫び声をだした。


「安心して、ほら」


 アーベルは顔色一つかえず、レバーをぐいっと押した。すると車内が光り、車はそのまま海の中を潜水艦のように進んでいった。


「す、水陸両用車…?」


「そうだよ、フロスト社が買ってくれたのさ」


「これ、安全保障隊に目をつけられません?!」


「あはは、大丈夫だよ。水陸両用車はアメリカでは結構流行ってるし、SNSでバズらせるために、わざとジェームズ・ボンドみたいに川や海につっこむセレブはいっぱいいるからね」


「……」


 キャサリンは顔をひきつらせたまま、車内で小さくなった。周りの水は真っ黒で、それがますます少女の不安を引き立てた。


(この物語の年は2023年ですが、ペスト対策のために科学技術が今よりかなり発展した世界なのでこういうことができます)

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