第33話 踊り場をつくる
「ほら、ヴィル。なにをつったってるんだい? またサボる癖かい?」
「……」
ライブ当日、ペストたちは忙しく動いていた。いつもは(日向を除いて)誰のいうことも聞かないヴィルも、アーベルには抵抗しづらいのか、むっとした表情のままオーディオを運んでいた。
「なんで俺たちがこんなことやんなきゃいけないんだよ……人手はどこいった、人手は」
「天候が悪くて、アイオロスくんの仲間の飛行機が昨日から遅れているんですって。かといって見知らぬ他人を雇うのは、万が一私たちのことがバレてしまったときにまずいことになるし」
リーナが言った。彼女はクリシュナと一緒に電子楽器の調子を調べていた。
「……なんでアイオロスさんは私たちを怖がらないんですか?」
キャサリンはそばにいて、進行表をアシスタントと確認していた盲目の音楽家に尋ねた。普通の人間がペストを怖がるのは当たり前だ。だが、この少年には一切そういった気配がない。我々に慣れきっているみたいだ。
アイオロスは少し黙ってから、笑みを浮かべて言った。
「怖がる? なんで怖がらなきゃいけないのさ。確かに君たちは不思議な魔法を使うし、それが人間を傷つけることだってあるけど、それは人間だって同じだろ? 結局は皆大して違いがないんだって僕は思うんだ」
音楽家というよりは、まるで偉大な小説家のような発言を、この少年はした。だが、そんなことはどうだっていいだろう。彼に恐怖と差別意識はまったくない。それが三班たちにとって一番の安心材料だ。
ライブ開催から3時間前になって、もう人が会場にたむろし始めたが、アイオロスの表情は不安に曇っていた。
「おかしい……仲間が来ない。メールを送っても返信してこないんだ」
「え?」
「空港にはもう着いたって言ってたんだけど……」
「何か起こったのかな……」
「テロリストか?」
「まあまあまあまあ、落ち着いて。どうするか考えよう。ヴィルならどうする?」
アーベルは鮮やかな緑色の目を弟子に向けた。
「二手にチームを分ける」
「そうだね。翔、怜、キャサリン、僕と一緒にアイオロスくんの仲間を助けに行こう。ヴィリアミ、クリシュナ、リーナはこの場にとどまって会場を守って」
「了解です!」
四人は駆け出した。
「曲が始まる前に間に合うといいんだけど……。ほら、僕って曲自体を作るのがメインで歌うのはあまり得意じゃないからさ……」
アイオロスが不安がにじんだ声音で、弱音を吐いた。
「大丈夫よ! 案があるわ!」
そんな彼にリーナが笑顔で言った。
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