第31話 思い出の場所
一週間はあっという間にすぎ、すぐに週末となった。ペストの子供たちはすぐに依頼の内容を覚え、久々の活動を少し楽しみにしていた。
「やっぱりほかの仕事より楽しいわ」
リーナが言う。
「だってペストのことをちゃんと同じ人間なんだって、考えてくれる人のために働けるもの。いつもとは大違いだわ」
「確かにそうだね」
キャサリンは相槌をうつ。日向とアリシアを除いたメンバーは車に乗り、会場へ着く。 そこはまだ準備中で、楽器などが運び込まれていた。
「きゃああああ!! 本物の歌手に会えるなんて夢のようだわ!」
リーナは今更その事実を実感したのか、興奮して叫んだ。
「私、ライブとか行ったことないのよ。仕事はあるし、もしあんな大量に人がいるところで能力が発動したらとんでもないことになるわ。だから能力が消滅してから行こうと思っていたの」
「メインは音楽のほうじゃねえからな」
「わかってるわよ、ヴィル!」
「さあさあ、騒いでないで。荷物を運ぶのを手伝ってあげよう」
アーベルがたしなめた。ライブが始まるのは明日。だが、前日からも大人数でみまわる。学校に行く必要がない大人のペストたちは、先週からずっと周りをパトロールしていた。
「すごいなあ……」
会場をみまわして、キャサリンはつぶやいた。
「こういうところは初めてなの?」
「そうなの、私はおばあちゃんとずっとふたりで暮らしてきたから、お金がなくてこういうところは全然よ。最近やっと生活が落ち着いてきたと思ったら、全部壊されちゃったし」
キャサリンの瞳に、燃え上がる雪のように白い怒りをリーナは見る。
「ライブは行ったことないけれど、私は両親が楽器演奏者だったから。小さい頃演奏をよく見に行ってたわ。大きなコンサートホールでやるのよ。すごく綺麗だった…襲撃でそのホールはなくなっちゃったらしいけどね」
リーナは遠くを見るような目つきをした。
「でも私はみんなより幸せな方よ。両親が生きているもの。ペストになるってマイナスなことばかりだけど、普通の生活がいかに幸せなのか実感させてくれるのよね」
彼女は紅茶色の瞳を伏せて、静かにつぶやいた。いろいろな感情がうずまいて見える。
キャサリンは、それほど遠くない場所でアーベルがぼんやりと立っているのを見た。その鮮やかな緑色とは裏腹に、目には思いがなく暗く濁っている。いったいなにが、そのような生気のないものにしてしまったのだろうか。
「すみません、少し遅れてしまって!」
そこで声がしたと思ったら、後ろから白杖をつきながら歩く、サングラスをかけた少年がやってきた。
「こんにちは、みなさん。僕がアイオロス・トロヤノスです」
彼はこうあいさつした。
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