第30話 伝達

「やあやあ、こんにちは」


 青年はにこにこと挨拶をした。その笑みに、なぜかキャサリンはゾッとする。無機質なのだ。笑っているはずなのに、感情が感じられない。どこかマネキンの笑顔にも似ている。一方、日向はそんな彼に対してむっとした表情を作った。


「遅い! ちゃんと休めって言ったのに」


「あはは、そんなことはしてられないよ」


 アーベルは目を細くして、懐からある紙を取り出した。


「社長から手紙だ。前偶然会ってね。その場でこれを渡してきた。新しい依頼さ」


 フロスト社の社長は知らせを電話か紙で渡してくる。メール等にすると、誰かに見られる可能性があるからだ。紙は燃やせば灰しか残らない。


「あら、久しぶりね」


「依頼……?」


「一般人の中にも、古い時代の考えのままなのかペストを信用する人がいるのよ。社長が信頼している人のみだけど、そういう人たちが私たちにしか解決できないような依頼をよこすことがあるの」


 アリシアがはきはきとキャサリンに説明する。


「で、どんな内容なの?」


「今読む……まって、もうこんな時間! お喋りしてる場合じゃないよ! はやく着替えなさい!」


 日向に怒鳴られて、少年少女たちは自分たちの部屋に散った。子どもたちが学校へ行くために、家を出ていったあと、日向、アーベルは席に座った。アリシアが彼に紅茶を入れた。


「ありがとう、アリシア。そういえば心臓の調子は?」


「うん、能力発動してれば大丈夫だから」


「そうかい、無理しないでね」


 青年はそう言い、紙切れを広げた。


「依頼はとある有名なアーティストから。この子が、近頃ニューヨークでライブをやるんだけど、どうやら他のペストから脅迫状が来たんだ。お前のライブを台無しにしてやるってね」


「それで、ライブを守ってほしいって私たちに依頼したの?」


「そのとおり」


「それで、依頼者の名前は?」


「アイオロス・トロヤノス。超有名人さ。ギリシャ系アメリカ人で、盲目の音楽家だよ。目が見えないのにヴァイオリンが弾け、素晴らしいEDM曲を作ることから大人気になったんだ」


「確かに聞いたことある名前ね。リーナが知ったら絶対喜ぶはずよ!」


「はは、それは間違いなしだな。ライブは来週の土曜にあるから、その日僕は子どもたちを連れてコンサートを見張ることにするよ」


「わかった、よろしく頼むね」


 日向は、微笑んで言った。

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