第26話 正体

 ケイが青目の少女と行ったあと、紫涵ズーハンはしばらく落ち込んでいたが、その後眠くなったので約一時間寝ていた。彼女を起こしたのは部屋の中の物音と話し声だった。ハッとして目を開くと、にゅうっと大きな手が目に入った。


「っ!」


 紫涵ズーハンは飛び起きると、その手を蹴り、部屋の隅に飛び移った。


「動くな! 撃つぞ!」


 きらっと光ったのは彼女が手に持っているピストル。いつも持ち歩いているものだ。三人の見知らぬ男を睨みつけ、少女は問う。


「誰だ、お前ら。なんのつもりでここにいる?」


「偉そうに言ってんじゃねーよ、クソガキ」


 男の一人が吐き捨てた。


「てめえら安保隊が。いままで何人殺してきやがったんだ、ああん?!」


「は?」


 安保隊に恨みをもつ者。つまりこいつらは……


「ペストか」


「ああ、そうだ。社会の害虫さ。そして俺たちは今からお前を殺す」


 そのとき、急に個室の扉が開いたかと思ったら、ケイが入ってきたのだ。




(苦しい……)


 怜は宙にぶら下がりながら、なんとか手で自分の首を締めている植物を引きちぎろうとした。が、うまく行かない。自分の能力を発動すれば、すぐにこんなものを「打ち消す」ことができるが、安保隊の前でそんなことをするわけにはいかない。


「離せ!」


 少女は激怒し、他の二人が彼女を抑え込もうとするが、すぐさま2発の弾が彼らを襲った。頭に命中させようとしたそれは逸れ、それぞれの肩と腕に当たった。


「痛ってぇ!」


 怜を縛っていた男は、今度は銃を自分の方に向けられたのを見、慌てて兵士を脅した。


「撃つなぁ!じゃないとこいつを殺すぞ!」


「っ!」


 男は動きの止まった少女を見て、にやっと笑った。


「こいつがどうなってもいいのか?」


「卑怯者! なぜペストはそのようなクソ野郎ばかりなんだ!」


 紫涵ズーハンは叫んだ。俺もペストなんだけどな。と怜は苦笑いをした。さあて、兵隊さん。さっさと俺を巻き込んで殺すんだ。お前たちはペストを殺すのが一番なんだろう? そこに巻き込まれる一般人は関係ないはずだ。明が止めようとしただけなのに、撃たれたときにように。


「……殺したいのは私だけでいいのか?」


 少女は低い声で言った。


「その人は一般人だ。お願いだから離してくれ。私のことは好きにしていい」


「そうしてやってもいいだろう。俺たちは関係ないペストも殺す安保隊とは違うからなあ」


「じゃあさっさと離すんだ!」


 男は植物を緩め、怜は床に落ちた。紫涵ズーハンはピストルを床に捨てた。


「ふん、安保隊にしてはいい子じゃないか。さっさとこっちへ来い」


 紫涵ズーハンはおとなしくそれに従おうとした。なんだよ。あきらのときみたいに殺すんじゃなかったのかよ。


「くそっ!」


 怜はすぐに立ち上がった。赤い炎が目と髪からあがった。


「力のあるお前らがただの訓練兵を襲うとか……クソみたいな安保隊と一緒だ!!!来い!! 俺が今からお前らを倒す!!!」


 三人の男たちは怜を口をあんぐり開けながら見つめ、紫涵ズーハンはショックで動けなくなってしまった。自分の信頼していた人がペストだった。しかも親を殺した炎のペストだ。

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