第23話 芽生え

「そしてそのときメイソンがね……」


 怜は何日間か病院に通い、紫涵ズーハンと喋った。彼は一切自分の情報を出さないよう努めた。万が一、彼女に自分がペストであることがバレてしまったとしても、特定されないようにするためである。怜は彼女に「ケイ」と名乗った。父の名前の「賢一」と自分の名前を合わせたものだった。


(めっちゃ能天気だな……)


 ペラペラと喋る朱紫涵スー・ズーハンを見て、怜は心の中で呆れた。だが、彼女の無駄話にはちらほら重要な情報が入っていたりするので、なかなか聞き逃せない。例えば安保隊内の序列の話。


 安保隊はアメリカでは州ごとに部隊が存在しているが、そのなかでも第一班から第十二班(このへんの数は週の大きさによって変わる)くらいに隊員が分けられる。班は本来地域によって分けられるものだが、実際は完全に強弱の関係があるらしく、数字が少なければ少ないほど強いらしい。


 これは隊員のやる気を出すために行っているという噂もあるが、現状では内部争いの原因になっていて、特にトップの一班と二班は仲が悪い。それから紫涵ズーハンにペストの情報も聞いてみたが、案外能力の種類やその特徴を知っていて、さすが向こうの教育はしっかりしてるんだなと怜は感心する。


 いくら体が再生するペストでも、弱点はある。それが脳と心臓だ。そこを撃たれてしまったら、大地属性の者でも死んでしまう。だからこそ、安全保障隊をあなどってはいけないのだ。


「でもね……」


 紫涵ズーハンの不安そうな声で、怜は現実に戻される。


「私、たまに引かれるの。女子なのに強すぎるって。女の子なのに強いのってやっぱり変なのかな……」


 うつむいた彼女に、怜はすぐ言った。


「そんなことないよ」


 俺の姉ちゃんなんてクソ強かったし。怜は姉の姿を思い出す。炎能力が強すぎる怜、水能力がメインの翔と違い、篠崎真莉の第一能力は大地であったが、3つすべてをバランスよく使った。彼女は三班の中では、アーベルの次に強いペストだった。


「他人の評価なんて気にしなくていい。自分のままでいいんだよ」


 怜にとっては何でもない言葉だったが、紫涵ズーハンにとってはたしかにそれは救済であった。彼女は長い間、自分に自信がなかったのだ。怜は初めて彼女を認めてくれた人となった。メイソンやドロテオさえ、そんなことは言わなかった。彼女は頬を染めて、目を伏せた。


「お、そういやもう3時か。じゃあ俺行くね、バイバイ」


 怜はそんなことに気がつかず、手を彼女に振って病室から出た。そのとき、廊下にはちょうど見舞いに来たシャーロットがいた。彼女はすぐに病室になだれこみ、意気込んで紫涵ズーハンに尋ねた。


「今の誰?! あなたの好い人?!」


「な! まさか! そんなわけないでしょ! ただの友達!」


「それにしては顔が赤いわよう」


「もー、うるさい!」


 一生懸命否定する親友の姿を見て、シャーロットは微笑む。


「ふふふ、でも大丈夫そうでよかった。火事にに巻き込まれたって聞いたから、とても心配したのよ? もう無謀な真似はしちゃだめよ」


「シャリー」


 紫涵ズーハンの表情は険しくなる。


「火災は無視することはできないよ。パパとママは、炎のペストが起こした火事が原因で亡くなった。だから私はペスト、特に炎のペストは絶対に許さない。一人残らず消してやる」


 彼女は低い声で言った。

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