第22話 ペストの力

「ア……アメリカ政府?」


キャサリンは目を丸くした。


「人々の意識を大きく変えることができる組織は、ソ連崩壊後ほぼ世界を支配してきたともいえるアメリカしかないだろう」


ヤコブは言葉を続けた。


「理由はいろいろ考えられる、まあまた軍がなにか考えているのだろう。例えば、ペストが戦力として使われていたせいで、武器が売れなくなったとかな。まあ政治的な話はこれくらいにしよう。政治なんてもともとクソだからな」


ヤコブは馬鹿らしいというように手を振った。


「さあて次はペストの基本情報に行こうか」


アイザックは微笑みとともに話を次のステップに進む。


「ペストの能力が大きく五つに分けられるのは知っているね?」


「はい、水、火、風、闇、そして大地の能力ですね」


「そうそう! 能力者の基本情報はここに書いてあるよ」


医者は一つのファイルをとると、キャサリンに手渡した。そこには次のようなことが書いてあった。


水の能力者

・水、雪、氷を発生させ、操る

・寒さに適応能力があり、冷たい天候、水の中でも自由に活動できる

 酸素濃度が低くても死ににくい

・能力発動時には髪と目の色素が薄くなる

・羽はカゲロウ型

・水の能力をもつペストの多くが北欧、ロシア、カナダなど寒帯地域に住んでいる


火の能力者

・炎、光、雷などを発生させ、操る

・熱に適応能力があり、体が燃えることはない

 また太陽を直接見ても、目がダメージを受けることはない

 酸素濃度が低くても死ににくい

・能力発動時には髪と目の色素が濃くなる

・羽はハチ型

・火の能力をもつペストの多くがアジアなど温帯地域に住んでいる


風の能力者

・風、もしくは振動を発生させ、操る

 また五つの能力者の中で、もっとも速く飛ぶことができる(時速300km以上、通常のペストは時速80km程度)

・気圧、衝撃に強い

・聴覚があがる

・羽はトンボ型

・風の能力をもつペストの多くがヨーロッパなど地中海性気候、西岸海洋性地域に住んでいる


闇の能力者

・闇を発生させ、操る

 闇はどんな魔法も通さない

・真っ暗でも目が見える(猫のように)

・能力発動時には髪と目の色素が濃くなる

・羽はガ型

・闇の能力をもつペストの多くが、乾燥帯地域などに住んでいる


大地

・植物、鉱物を生み出すもしくは操ること、また動物、鳥類や昆虫などと意志を交わすことが可能

・再生能力がほかのペストに比べて非常に高い(ほかのペストは腕一本を完全に再生するのに有する時間は15分程度だが、大地能力者は10秒以内に再生する)

・大地能力者の血には植物の成長を促進させたり、ペストや人間の傷を早く癒す効果がある

・能力発動時には目が緑色に変わる

・羽は蝶型

・大地の能力者は自然と深くかかわる者、もしくはその子孫に多い


メモ

様々な人種の血が入ったペストは、能力を複数もっていることが多い。能力を複数もったペストは応用力が高く強いため、それ故に狙われることも多い。


ふとキャサリンは瓦礫を風のような衝撃で吹き飛ばしたことを思い出す。風の能力者がヨーロッパに多いなら……自分が風の能力を持っていてもおかしくないはずだ。次を読み進めると、驚くようなことが書かれていた。


ペストの能力はある一定の年齢を超えると消えてしまう。人によって違うが、だいたい20代後半から30代前半にかけて消える。


「能力が……消える?!」

思わずキャサリンは叫んだ。


「そうだ、私のはもう消えてしまった」


ヤコブは少し悲しそうに、手をくるりとまわした。


「以前私は大地能力所有していた。その力で虫と会話することもできた。だが今はもう虫たちと心を通わすことはできない」


「僕も水の能力をもっているけど、正直いつ消えるかわからない」


「そうなんですね……」


二人は悲しそうだったが、キャサリンにはまさに新しい希望ができた瞬間だった。そう、あと20年、20年経てば、自分は人間に戻り、おばあちゃんのもとへ帰れるのだ。そのとき、自分は35歳。まだまだ道のりは先だが、望みがなかったキャサリンにとっては大きな光となった。




帰り道、病院の廊下を歩いていると、怜にばったり会った。


「あー! キャサリン、どこ行ってたんだよ」


「ちょっと講義を聞いていたの。怜こそなんでここに?」


「別に、お前を探してたんだよ」


怜は素っ気なくそう言ったが、安保隊の少女と明日も会うことをもう約束していた。

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