兵士と妖精

第18話 とある訓練兵

 安保隊、正式名称安全保障隊。ペストの命を脅かす一番の敵である。だが、多くの国民からは、安保隊はペストから人間を守るヒーローとして親しまれていた。


「やったー! また一位取った!」


 ここはニューヨーク安全保障隊訓練所。12~18才の少年少女たちが、安保隊となるべく訓練するところである。そして、たくさんの訓練兵がいるなか、そう叫ぶのは身長の低いお団子アレンジの黒髪の少女。


「すごいわ、ズー。私もあなたぐらいできたらなあ」


 彼女の友達で、金髪のボーイッシュな髪型をした少女が目を輝かせて、親友を見つめた。


「こんなのすぐにできるようになるよ、シャリー」


「さすがにお前の運動神経には誰にも追いつけねーよ」


 うんざりしたような顔で、ヒスパニック系の少年が言った。


「ほんとだよ。それより腹減った。食おうぜ」


「あんた食べたばっかじゃん、メイソン!」


 黒髪の少女は怒って、赤毛のボブの少年を軽く叩いた。


 彼女の名前は、朱紫涵スー・ズーハン。中国出身の少女である。両親はペストにより死亡。残された彼女は自分の国のペストを軍事利用するスタンスに反発し、アメリカへ安保隊となるべくやってきた。身長は155cmと低いが、訓練兵の中では成績がトップ。チームは、親友のシャーロット・メアリー・ルイス、ヒスパニック系のドロテオ・ガルシア、そして食いしん坊のメイソン・パーカーとともに組む。


「へへえ、明日から休暇!」


「いいな、私はマンツーマンレッスンがちょうど被っているからな…」


「夜少し遊ぼうよ」


「うん!明日は何するか決めた?」


「ショッピング行こうかな」


「いいね!」


 紫涵ズーハンはたとえ運動神経ナンバーワンの男っぽい性格をした子であっても、おしゃれに無頓着なわけではない。ちゃんとした女の子なのだ。


「はあ、全然合うサイズが見つからないー!」


 しかし、次の日、彼女を待っていたのはサイズの大きすぎる服。どれを試しても溺れそうになるほど、ぶかぶかである。なぜアメリカ人はこんなにもデカい人が多いのだと、恨めしくなる。


「はー、どうしようかな。チャイナタウンならなんかあるかな?」


 デパートから出ようか考えていたその時、煙の匂いが鼻をついた。奥を見ると、炎があがっていた。


「火事?!」


 スタッフたちはパニック状態になり、どうすればわからないでうろうろしている。紫涵ズーハンは彼らをそんな彼らを指導した。自分はいずれ安全保障隊になる者。率先して行動しなければ。奥で悲鳴があがる。小柄な少女は覚悟を決め、人々を助けるために、炎に突っ込んでいった。




 夜の8時。一本の電話に、日向が出た。


「本部から電話よ。近くのデパートで火事が起こったので、マンションに移る前に、火を消すように、だそうです。火、闇もしくは水の能力をもつ人は準備して!」


「はあい!」


 日向、翔、怜、ヴィリアミ、クリシュナ、キャサリンの計6人が出発した。

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