第16話 思わぬ助け

「風・そよ風brisa ligera


 その瞬間、指先から突風が発生し、一瞬で巨体を100メートルほど飛ばし、壁に激突させた。あんなに騒いでいた会場が、すぐに静かになった。たった今目が覚めたヴィルとクリシュナも、驚きで動けなくなっている。


霧月ブリュメール様?! 何をしなさるのですか?!」


 開催者が困惑して言う。


「試合の邪魔をしてすまないな。だが、私には熱月テルミドールから任された仕事がある。それがここの調査なのだ。初め、私はこの催しをただの大会だと思ったのだ。しかし私は先ほど、これは『ペストを売る』ためのイベントであると聞いた。ペストを商品として扱うのは、我々、特に熱月テルミドールは許さない。この会場、そしてこの組織は私、霧月ブリュメールが処分する」


「何?!」


 霧月はくいっと指を曲げると、開催者が風に操られ、霧月の前に飛んできた。たくさんの観客席にいた人々はパニックになり、慌てて逃げようとした。


「何を馬鹿なことを、霧月ブリュメール! 人間とペストが共存することはできない! 劣った者は、必ず優れた者を妬む! 人間がペストを認めることなどないのだ! 商品として以外はな‼︎」


「いや、ペストの時代は必ず来る。神が存在する限り、奇跡は必ず起こるのだ。そのために我々は働く。我々は『神の僕』であるのだ」


 霧月はふとキャサリンの方へ向き、口を開く。


「本当は静かに処分しなければならないから、後でゆっくり消していこうと思ったんだがな……大騒ぎになってしまった。お嬢さん、あなたは左にある扉へ行き、あなたの友達を救うのだ。そこにいる君の仲間たちにもそう伝えてくれ」


「はい……あ、あの……ありがとうございます…」


「どういたしまして。だが助けるのは今回だけだ。次に合うときは立場が一緒になるかどうかはわからないからな。それと他のモワには十分に気をつけるように」


「はい!」


 キャサリンはすぐに、リングから降り、ヴィルとクリシュナに合流した。


霧月ブリュメールさんが翔がどこにいるか教えてくれたよ!」


「一体何があったんだ……全く何が起こってるのかよくわからん……」


 ヴィルが困惑した表情でつぶやいた。


「私もよくわからないよ。でも早く行かなきゃ!」


 三人は足早に、会場を去る。左の扉へ行くと、倉庫のような風景が広がっていた。檻のようなものたくさんあるが、今はほとんど開けられていた。


「みんな逃げたのかな……?」


 奥へ進んでいくと人影が見えた。つい身構えるが、それはリーナだった。


「なんだ、リーナじゃない。翔は見つかった?」


「ええ、見つかったわ。それから……日向にも見つかっちゃったわ……」


「え」


「あー! あんたたちもここにいたの?!」


「日向!? オクサーナたちを呼んだんじゃないのか?」


「違うよ、時間かかっちゃうもの。私が呼んだのは-」


「私ね」


 現れたのは背のとても高い女であった。髪は長く真っ黒であったが、目は雪のように白かった。


「マダー!!」


 クリシュナとヴィルが叫んだ。

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