第14話 予期せぬ客

 時計が夜中の十二時をうった瞬間、5人は家を飛び出し、会場へ向かった。キャサリンは怜の隣を歩いた。彼はずっと無口で、ぼんやりしているようだった。


「大丈夫……?」


 いや、大丈夫なわけがない。姉に続いて兄が行方不明となったのだ。それも自分のせいで……。うつむいたキャサリンの横で、茶髪の少年はボソッとつぶやく。


「兄ちゃんはなんで姉ちゃんを探していること、俺に行ってくれなかったんだろう……」


 兄に信用されていないと感じたのだろうか。しかし、翔の発言を聞いたキャサリンはそれを否定する。


「落ち込まないで。翔はあなたのこととても大切に思ってるよ。だって私に言ったんだよ。これは全部弟のためにやってるって」


 怜は彼女の言葉に目を見開く。彼の大きなつり目は真莉によく似ていた。翔はそれに姉を重ねていたのだろうか。


 会場へついたのは歩いて20分ほど立った頃だ。それは大きな倉庫のようなところで、数人の人が出入りしていた。


「ほんとにここなの?」


「うまく隠しているんだよ。よし、二手に別れよう。怜、リーナ。お前らは倉庫の裏口から入れ。どこかにペストたちが囚われている場所があるはずだ。俺含めた他3人は正面から突っ込もう」


「了解、キャプテン」


 ヴィリアミ、クリシュナ、キャサリンはマスクを着け、フードをかぶり、メインゲートから入る。


「申し込まないと入れないとかあるかな…?」


「そのときはなにか別の方法を考えればいい」


 しかし、キャサリンの不安に反して、入り口にいた門番に普通に通してもらえた。中はスタジアムのような内装になっており、大変賑わっていた。真ん中には巨大なリングがあり、それを座席がぐるりと囲っていた。ほとんどの席が、人々でうまっていた。


「なにこれ…」


 キャサリンは驚きでそれしか言えなかった。そこをスタッフの一員が話しかけてきた。


「あなたたちは出場者ですか?」


「しゅつ……え?」


 突然の質問に、金髪の少女は戸惑う。


「出場者ではないなら、申し訳ないのですが、会場から出ることになりますが……」


「いいえ、ちょうど参加したいなって思っていたところです。待合室とかはありますか?」


 ヴィルの言葉に、スタッフは3人をリングの下にある、人々がうじゃうじゃ集まっているところに案内した。


「これどうやら僕たち、戦わなきゃいけないらしいね」


「え……?」


 クリシュナの発言に、キャサリンは目をまあるくした。


「リングがあるからな。どうやらここではペストは完全に合法らしい。開催者はマッチが好きなせいか知らんが、ここでは戦って勝つことでお目当てのペストを手に入れる権利がもらえるらしい。これは翔を取り返せる2つ目のチャンスだ。見逃すわけにはいかない。怖いなら帰ったっていいんだぞ、ウィルソン」


「なわけないでしょ!私のことは気にしないで戦ってね。囮につかって」


「お前が囮になれる能力があるかもわからんがな」


「うっ」


「皆様、第49回ペスト市場へようこそ!初めてご参加いただいた皆様に、私めが説明をしたいと思います! あなた方が後押しされたペストのプレイヤーたちにリング上で戦ってもらいます! ルールはいたって簡単!リングから落ちたら負け!戦いに勝ち残った順番から、皆様にはペストを自由に選んでいただきます。お支払いはその後! 今回のプレイヤーは40人ほどですね」


「40人?!」


 その数字に、キャサリンは圧倒される。


「それではプレイヤーの皆さん、リングの上にお集まりください!準備はよろしいですか? ではよーい-」


 突然、司会の声が止まった。沈黙が長く流れた。キャサリンは全員の顔が左を向いていることに気がつき、自身もそちらを見た。

 とある人物が歩いていた。ペストマスク、そして長いマントを着た不思議な人物である。その人の靴の、地面を叩く音が、会場中に響いていた。全身真っ黒だったので、キャサリンはエドワード黒太子を思い出した。


「申し訳ございませんが、お客様。もう受付は終わっておりまして。また別の機会にご参加いただければ……」


 開催者が言ったが、謎の人物はそのままゆっくりと歩き続けた。


「おい、誰だ。こいつを入れたやつは。お前は一体何者だ?」


 ふっとペストマスクから笑うような音が聞こえた。


「そうだな、自己紹介はしなければなるまい」


 彼の声は若く、澄んでいた。


「私は『神の僕』12神官の一人、霧月ブリュメールだ」


 会場内にどよめきが走った

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