第10話 秘密

 肌寒い夜だった。リーナとキャサリンはまず最上階に行き、そして屋上へ出た。空に雲はなく、星がきらきらと輝いて見えた。


「フロスト社の所有している建物はここからあそこまでね。」


 リーナは向こう側を指して言う。


「一緒に見てまわろう」


 二人は屋上をひっそりと歩く。肌寒い風が彼女たちの間を通り抜けたが、快適な夜であった。


「戦うことは……よくあるの?」


「まあまああるわね。テロリストが多いでしょ」


「……」


 キャサリンの体はわずかに震えた。


「待って……静かに。なにか聞こえる」


 リーナは音をたてないように、静かに忍び寄る。


「あそこからだわ。ここにいて」


 リーナは素早くそこへ駆け寄った。


「こんばんは! そこで何してるんですか?」


「うわ!」


 どうやら男がそこに隠れていたようだ。衝撃音がし、キャサリンはリーナが後ろに飛び下がるのが見えた。


「ちょっと待ってください! 私は別に安保隊にチクるわけじゃ……」


「うるせえ!」


「きゃ?!」


 また大きな音がし、男がこっちに向かてくる音がした。


(怖い……!)


 キャサリンは慌てて隠れた。口を手で抑えて、呼吸音が出ないようにする。足音はだんだんと大きくなる。少女は恐怖で目をつぶった。


「おい」


 そこで低い声がし、植物が切れるような音がした。男のくぐもる音がした。


「なんだてめっ……」


「黙れ、俺の質問に答えろ。篠崎真莉という名を聞いたことあるか」


その声の主はほかの人に聞こえないよう静かに尋ねる。


「何言ってんだっ……てめえ…一体誰のことだっ……」


「じゃあいい……おい」


 呼びかけられ、キャサリンが目を開けると、美しい青い瞳の少年がいた。自分を助けてくれたあの少年、篠崎翔であった。


「もう大丈夫だ」


 彼は手を差し伸べ、キャサリンはそれを掴み立ち上がった。またこの人に助けられてしまった。


「あ……ありが」


「こんのクソガキッ!」


 キャサリンがお礼を言おうとしたとき、片手が自由になった男はそこから爆風を繰り出そうとした。


「風・32分音符Zweiunddreissigstelnote!」


 しかし、後ろからリーナが襲ってきた。彼女の攻撃によって、周りの空気が震える。大きな衝撃を受けた男は気を失ってしまった。


「まったく、大人しくしなさいって」


 リーナは困ったように眉を下げた。


「ところで翔くん、なんでこんなところにいるのかしら? 非番じゃないの?」


 翔は眉間にしわをよせた。


「お前には関係ない」


「ねえ、ひな姉さんにチクるよ」


「うるさい」


「あ、ねえ! どこ行くの?!」


 リーナの抗議も無視し、翔はそっぽを向くと、マンションから別のビルに飛び移り、闇に消えた。キャサリンは彼が消えた方向をただぼんやりと見つめた。

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