第6話 逃走

「動くな、手を上げろ」


 囲まれた日向たちはそっと手を上げた。


「攻撃をしなくても、撃つつもりですか?」


 日向は静かに黒い特殊スーツを着た隊士に聞いた。


「……危険な因子は全て排除する」


「そう……。いいよ、攻撃」


 日向がそう言った瞬間、真上から二人の人物が飛び降りてきた。


「炎・煌煌!」


「闇・夜のベールरात का पर्दा


 二人は叫び、突然辺りが真っ白になったかと思えば、今度は闇に包まれた。安全保障隊が眩しさでうめく声が聞こえる。


「早く車へ乗って!」


 少女たちと父親は車の方に走っていったが、キャサリンは今が逃げ出すチャンスだと思った。闇を駆け抜け、何が起こっているのか把握しようとしていた隊員に駆け込む。


「た、助けてください! 私ペストじゃないん……」


 男は銃を突きつけた。


「な……ど、どうして」


「お前がペストじゃないだと? 何を言っている、貴様の手を見てみろ! 今更命乞いをしようとも無駄だ」


 は?!  キャサリンは唖然として、手のひらを見た。霜で真っ白になっている。


「お前は人間じゃない」


 安保隊員の言葉はグサリとキャサリンの心を突き刺した。

 自分はペスト。誰が何を言おうともその事実は変わらない。自分の信じていたものは、そのとき全て崩れてしまった。


 日向が正しかった。私を助けようとしたんだ。なのに……。

 

 もっと言うことを聞けばよかった。


 キャサリンは諦めて死を覚悟した。


 が、銃声はならなかった。

 突然、隊員が後ろから来た者の攻撃によって倒れた。先ほど降りてきた二人とはまったく違う方向から現れたので、おそらく三人目だろう。

 キャサリンはその者の美しい藍玉色の瞳を見た。彼はすぐキャサリンを抱きかかえた。


「え、ちょ……」


「じっとしてろ、走るぞ」


 そのまま自分はどんどん戦いの場から離れた。先程の者が出した闇の中に入れば、もう見つからない。


 隊員はイラついて本部に連絡をとった。


「おい! あの車の追跡はどうなっている!」


「ダメです! 町の上空に真っ暗なもやが充満していて、追跡を邪魔しています!」


 逃走は成功した。

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