第3話 知られざる事実

 ふと、目を開ける。まぶしい朝の光が差し込んできた。さえずる鳥の声が遠くから聞こえる。

 布団の中にいるのだろうか。温かい。

少し、動こうとした途端、体はひりひりと痛んだ。なぜだかは思い出せない。

 昨日なにかあったっけ? 


 そのとき一瞬脳内に浮かんだのは、瓦礫と化した自分の街……。


 

 いや、違う。そんなはずはない。外が静かすぎる。あれは夢だったんだ。

 キャサリンは上半身を起こした。


 彼女は知らない部屋にいた。

 白い壁のあまり大きくない部屋だ。自分は白いベッドの中にいて、床には薄緑色のカーペットが敷いてあった。


 ここはどこ?


 腕を見ると包帯がきつく縛ってある。いや、腕だけじゃなく、腹部もだ。ぼんやりと辺りを見まわしていると、部屋の奥の扉が開いた。


「あら、起きたのね」


 入ってきたのは、長いストレートの黒い髪をもったアジア人の女性だった。彼女のアメリカ訛りの英語が耳をついた。その女性は脇にあった小さな椅子に座って、キャサリンの腕を確認した。


「もう包帯を取っても大丈夫そうね。気分はどう?」


「ここは……どこなんですか? あなたは誰ですか?」


「ここはあなたの故郷からとっても離れた場所よ、わたしは紅井べにい日向ひなた。よろしくね」


 どうやら彼女は日本人らしい。でもとっても離れた場所ってどういうことなんだろう。ここはロンドンじゃないの? 

 つまり、自分は避難したのか?昨日の襲撃は……夢じゃないってこと?


「ロンドンは……」


 日向は少し俯いて、スマートフォンを取り出した。ニュース番組のアプリを起動させると、全ての報道がイギリス襲撃一色になっていた。


「そんな……」


 キャサリンは茫然として、何も言えなくなった。だが、尋ねなければいけない大事なことがある。


「おばあちゃんは? おばあちゃんは生きてるの?」


 日向は少しだけ口角をあげた。


「ええ、安心して。今治療を受けているわ」


 キャサリンはそこですっかり安心して、再び上半身を横たえた。


「よかった……」


 ふう、と息を吐き、それから自分が今どこにいるのか知りたくなった。


「お腹空いてる?おかゆあるけど持ってくる?」


 日向は会話を続ける。


「はい……できれば……。あの……ここってどこですか?」


 日向は目を瞬かせ、ごく軽い調子で言った。


「ニューヨーク州よ」




 沈黙が流れた。


 待って待ってちょっと意味わかんない

 ヨークじゃなくて「ニュー」ヨーク?

 どうやって一夜でニューヨークまで来たの?

 飛行機で運ばれてきたの? わざわざ?

 なんで? わたしアメリカの技術でしか治せない怪我でもしたの?


 怪我のことを思うと、包帯が巻かれた胃あたりがずくんと動いた。あれ、そういえば昨日銃に________


「おかしいと思うのは当たり前だと思う。だけどよく聞いてほしいの」


 日向は真剣な表情で言った。


「あなたはもう通常の生活には戻れない。ここで私たちと一緒に暮す必要がある」


「……なんで? 私何かしたんですか? おかしいですこんな……」


「残念ながら、あなたは世界から嫌われ、殺されるような生物になってしまったの。つまり簡潔に言うと



   あなたはペストになった」

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