第2話 裏切り
ぜったいに生きのびるのよ、キャサリン
いい?お母さんとのやくそくよ
目を覚ますと瓦礫の中だった。変な夢を見たようだ。全身が焼けるように痛い。
黒く汚れた腕に力を込めて立ち上がる。
「っ……」
辺り一面焦げていた。
建物はあまり崩れていなかったが、ガラスは割れ、壁は焦げていた。人の声はしない。遠くに銃声が響いているのが、破れた鼓膜ごしに僅かに聞こえるだけだ。これは……夢なのかしら?
人が倒れているのが見えた。キャサリンは、その人のところへ体を引きずりながら行ったが、その人の顔はガラスが突き刺さって血まみれになっており、思わずヒッと悲鳴を上げた。彼はもう既に息絶えていた。その悲惨さはキャサリンをすぐに現実に引き戻した。
おばあちゃん……!
キャサリンは足をなんとか動かして、痛みにうめきながら走った。自分の家が無事であることに希望をかけていた。大丈夫、あの家ちょっと古いけど頑丈なはずだし崩れることなんて……
しかし現実はキャサリンの僅かな望みを打ち砕いた。
キャサリンが住んでいたアパートは半分倒壊していた。
「ああ……ああああああああ!」
そんな……嘘だ!これは違う……きっと悪い夢よ!だってこんな……
キャサリンは座り込んだ。どうしようもなくなって、手に瓦礫のかけらを握りしめる。もはや痛みを通り越して何も感じなくなっていった。
わたしの家族はもう一人もいないの?
「う……うう……」
そのとき、キャサリンの耳がはっきりとうめき声を捉えた。
キャサリンは、ハッとしてその声をたどって、瓦礫を掘った。コンクリートのかけらの間から、祖母の体が出てきた。キャサリンは荒い息を吐きながら、彼女の脈を確認した。
生きてる……!
それからキャサリンはがむしゃらに瓦礫を取り除いていった。
絶対に助けなきゃ。これ以上家族が死んでしまったらわたしは……!
しかし、障害はすぐに出た。重くて持ち上げられない大きな壁の残骸があるのだ。キャサリンは踏ん張って、もがいて、何が何でもそれを持ち上げようとした。だが無駄であった。石の塊はビクとも動かない。
キャサリンの目から涙がこぼれた。自分の非力さ、悔しさ……。そして怒り。彼女の家族を二度も奪った、ペストへの怒りだ。
そのとき、何かがパシパシと音を立てているにに気がついた。まるで冬の霜柱を踏むような音だ。キャサリンが見回すと、瓦礫が上に持ち上げられているのに気がついた。瓦礫の下にあったのは氷だった。
なんで……?と彼女は思ったが、今はそんなことどうでもいい。祖母を瓦礫から引き出して、彼女は辺りを見まわした。なぜか瓦礫にうっすらと霜が積もっていた。
救助隊はまだ来てないのか? いや、安全保障隊がいる。真っ黒になった建物の上で、一人立っていたのが見えた。キャサリンは彼らにsosの合図として手を振った。彼女は叫んだ。
「あの! 早くこちらに! 怪我人がいます!」
安全保障隊がこっちを見た。銃も彼の腕の中で、彼の視線と向きを合わせた。
大きな音がして、銃から煙が出た。
腹部に激痛が走った。口から血が迸り出て、血の味しかしなくなった。足の力がなくなって、その場に倒れる。
撃たれた……?
まさか。
なんで。
祖母の名を呼ぼうとしたが、喉の奥で血がゴロゴロと音を立てただけだった。
痛い……痛いよ……お母さん……
涙が出て、地面を濡らした。視界の隅に自分の髪が見える。
あれ、なんで私の髪の毛金髪なんだろう。
お父さんと同じ茶髪じゃなかったっけ。
意識はそこで途切れた。
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