―第45話― 災害

 大量の魔力を発しているためか、ルビーさんの周りでは青白い放電反応が発生している。

 ……というか、魔力が濃ゆすぎませんか!?


「メイサはこれ一発で沈めちゃったけど……」


 そう言いながら、ルビーさんが徐にサングラスを外した……!

 ここからだと、素顔が見えないんだけど!

 両手を前に突き出し、何かの構えを取り出す。


「君たちなら、耐えてくれるよね……?」


 明らかに悪意のこもったその声に、その場にいた全員が戦慄した。

 恐らく、いや確実に、ルビーさんは必殺技的なものを発動しようとしている。


「《ディザスター》!!」


 ルビーさんを中心に、町を覆うのではないかという程の大きさの魔方陣が展開された。


「《解》」


 魔方陣からは、大量の魔力が流れ出し、それらがすべてルビーさんの両手の間に吸い込まれていく。

 そしてそれらは、少しづつ形を形成し始めた。


「《最後に聞いておいてやる。降伏するつもりはあるか?》」

「そんなもの、あるわけが……!?」

「《じゃ、いいか》」


 驚くほど冷たい声でそう言い放ったルビーさんは、その球体を上方にゆっくりと投げた。


「《渦》」


 ルビーさんの声で、その球体が弾けた。

 それとともに、リアとツツジめがけて突風が吹き荒れた。


「がはっ……!?」

「『…………』」


 そのまま二人は後ろの家に衝突し、ピクリとも動かなくなった。


「はーい、一件落着!!」

「ルビーさん!! リアは無事なんですか!?」

「ん? ダイジョブダイジョブ。ちゃんと、気絶する程度に力加減しておいたからさ」

「そ、それならよかったです」

「てか、もう魔方陣から出ても大丈夫だよ」

「あ、はい。ありがとうございました」

「いいよ。困ったときはお互い様、情けは人の為ならず、ってね」


 ニッと笑みを浮かべたルビーさんは、そのままリアたちのほうへ歩き始めた。

 ……着いてった方がいいのかな?


「……なるほどなるほど……かなり複雑な精神汚染の魔法が組み込まれているな」

「大丈夫なんですか?」

「うん。僕の魔法だったら何とかなるんじゃないかな?」


 リアの額に手をのせ、大きな声で詠唱を始めた。


「《ゴスペル》!!」


 魔法を唱え終わると同時に、スッとさわやかな風が通り抜ける。

 そして、今まで放たれ続けていたリアの魔力が少しづつ弱まり、普段のリアと変わらないくらいまで落ち着いた。


「さて、ツツジはどうしようかね」

「……短い期間とはいえ、一緒にいましたし、その、なんというか……」

「情が移ったって感じか。ま、その気持ちはわからなくはないよ」


 だけど、と一言置いて。


「いつまた、リアトリスや君に危害を加えるかはわからないよ? それでもいいなら、見逃すのも……」


 そこまで言って、ルビーさんは後ろを短剣で切りつけた。


「覗きとは、いい趣味してんなあ!!」


 え!?

 ルビーさんの視線の先には、修道士のような恰好をした男性が立っていた。


「これはこれは、気付かれておりましたか」

「あったりめえだ、バーカ!!」

「ル、ルビーさん、あの人は誰ですか……?」

「ジャスミン、絶対に俺のそばから離れるなよ。殺されるぞ」

「わ、分かりました」

「安心しなさい、お嬢さん。そのような物騒なことはしませんから」

「お前は、だろ? 周囲に魔物を召喚しておいて、何が物騒なことをしないだ」

「そこまでわかってらっしゃるのであれば、話は早いですね。ツツジをこちらに引き渡してください。それはもともとこちらのものです」

「俺の領域内に入った時点で、こいつも守護対象だ」

「……まったく、強情な方ですね」


 火花が散り、金属音が響く。

 一瞬しか見えなかったが、目の前の男が何かを撃ち出したようだ。


「《ディザスター》!!」

「……!! 日に何度も打てるような代物ではないと踏んでいたのですが……、誤算でしたね」

「《ライトニング》!!」


 詠唱が終わるや否や、大きな爆発が起き、辺りに土煙が立ち込める。

 その間もルビーさんは私たちを守るように構えを解かず、周囲を警戒してくれていた。

 ……しかし、四方八方から攻めてくる魔物たちに少しづつ押されてきている。


「チッ、舐めやがって……」

「まだそれだけの余力があるのですね。やはり、大目に魔物を呼び出しておいて良かったです」

「《死ね》!!」


 土煙がはれると、そこには死屍累々が転がっていた。

 ……今の一瞬でこれだけ殺したって、本当に凄すぎる。


「ここは、私に免じて返していただく、ということでよろしいですか?」

「……ああ。興が冷めた。さっさと消えやがれ」

「……わかりました。それでは、失礼します」


 そう言って奴はマントを翻そうとして……。


「あ、そうでした。ジャスミンさん、でしたね。私の名前は、セルバンテスと申します。一応、魔王軍最高幹部でございますので、いつかまたお会いした時には……、よろしくお願いしますね」


 そう言い残し、セルバンテスはツツジと死体諸共消え去った。

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