―第46話― 継承
「チッ、ようやく行きやがったか」
「ルビーさん、大丈夫ですか?」
「俺は別に大丈夫だが……、ジャスミンちゃんは何ともないか?」
「え? あ、はい」
ルビーさんが守ってくれたおかげもあり、私とリアは無傷のままなのだが……。
「ジャスミンちゃん、今から大事な話をするから聞いてくれ。リアトリスもだ。《起きろ》!!」
「………………ん? あれ……?」
「リアトリス。戦った直後できついとは思うが、しっかりと目を覚まさせて、今から話すことを聞いてくれ」
「……あ、ルビー、さん……! さっきは、本当にすみませんでした!!」
「いいよ、あのくらいなら。久しぶりにいい運動になったし」
そんなことを言って、言って……。
ルビーさんにとって、さっきの死闘は運動レベルなの……?
「……一応、結界張っとくか。《防音》。……さて、今から話す内容というのは、魔王軍に関することだ」
魔王軍……!?
「それって、やっぱりさっきのが関係しているんですか?」
「ああ。というか、あいつが元凶だ」
「……ごめん。まったく話についていけてないんだけど」
「簡単に話すと、君が寝ている間に魔王軍最高幹部さんが遊びに来たんだ。で、ツツジを連れて帰ってった」
「ツツジを!? 目的は!?」
「知らないし、知りたくもない。それでなんだけど、今回のことではっきりとわかったことがあるんだ」
言うべきか躊躇っているのか、一瞬だけ顔をしかめ、それから再び口を開いた。
「君たちは、魔王軍から確実に命を狙われている」
……え?
私たちが……?
「まあ、流石にそうですよね」
「リア、どういうこと?」
「俺たち、何回か魔王軍を撃退してきたじゃんか。そりゃあ、危険人物認定されるだろ」
「その通りだ。……恐らくだが、これからも命を狙われるだろう」
「「………………」」
絶句するしかなかった。
私は、ただ漠然と冒険者を志し、そこそこに活躍して、町で少しちやほやされてきた。
私には、それくらいで丁度良かったのだ。
おかげで、今や最高の仲間、相棒と呼べるくらいには信頼しているリアとも出会うことができた。
それが、どうして魔王軍から命を狙われなければ……。
「なんか、お通夜みたいなムードになっちゃってるけど、そこまで心配する必要はないよ」
「どういう事ですか……?」
「僕は、そのことについて話したかったんだ」
突然、全身の毛が逆立ったような感触に襲われた。
これは……、大量の魔力が動いた時の……。
――《継承》!!
その瞬間、目の前に様々な光景が流れ出していった。
何十年、何百年といった時間が一秒にも満たない時間で駆け巡っていくような感覚。
喜びの感情、悲しみの感情、怒りの感情、それらが脳内に溢れ出し、パニックを起こしてしまいそうになる。
やがてそれらは色褪せ、最後には真っ暗になった。
「……成功、したのかな?」
「なに、を、したん、ですか?」
「僕の記憶の一部を君たちに流し込んだんだ。リアトリスのほうは……、少し容量オーバーだったかな?」
「だ、大丈夫です……」
「うん、それならよかった。とりあえずは、僕の記憶を君たちに共有することができたね。この効果は、次に戦闘が起こったときに実感できると思うよ」
「……特に、変わった感じはしないんですけど」
「そりゃあそうさ。今のところは、思い出す必要のない記憶だからね」
「必要なときに、必要な記憶が呼び出されるってことか?」
「ま、そんな感じだね。はっきりとした記憶じゃなくても、感覚的なものが呼び出されるはずだ」
さて、と一言置き、寂しそうな顔でルビーさんは話し始めた。
「僕が現世に居られる時間は、もうそろそろ終わりみたいだ。……夢の中で会えるまで、しばしの別れだな」
そう言いながらこちらに見せてきた左腕は、今や半透明になっていた。
「でもまあ、最後の最後まで助言を送らせてもらうぜ。……リアトリス。気づいてはいると思うが、君の能力は感情に左右されやすい。特に君の場合は、怒りの感情がよく動いている。怒りに呑まれて能力の制御が効かなくなるなんてことにならないよう、しっかりと注意しておくように。ジャスミンちゃんは、もう一度リアトリスに修行をつけてもらいなさい。ライトニングは、まだ改善するべき点がたくさんある。でも、それらを完璧にこなせるようになれば、君はさらに強くなれるだろう」
ライトニング……。
そういえば、そんな魔法もあったわね……。
いや、別に、忘れてたとかじゃないんだからね?
「よし、それじゃ、そろそろ俺は帰るとしますかね。すべてのものは、あるべき場所へ帰らなければならない。それは、君たちも一緒だ。……というわけで、君たちのようなお子様は、《今すぐおうちに帰りなさい》」
視界が淡い光に覆われ、思わず目を閉じてしまう。
そして、再び目を開いたときには、そこはいつもの見慣れたサンビルの街だった。
「リアトリス、ジャスミン!! ようやく帰ってきたのか!!」
後ろの方から聞こえてくる嬉しそうな声に、私たちは同時に振り向いた。
こちらに向かって手を振っているサントリナさん、満面の笑みを浮かべている。
命がけで戦ってきた後とは思えないほどの和やかな空気感に、思わず顔が綻んでしまう。
それはリアも同じだったようで、少しうれしそうな表情を浮かべたまま、
「せっかく依頼を達成してやったんだ。サントリナの野郎から、たんまり金をせびってやろうぜ」
そんな、照れ隠しとしか思えないようなことを言い出した。
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