―第44話— 降臨

 全魔力を流し込むと同時に、澄んだ音を立ててブレスレットが壊れた。

 そして、その破片一つ一つから膨大な魔力が流れ出し……。




「さいきょーのヒーロー様、颯爽と登場だぜ!!」


 隣から、そんな楽しげな声が響いてきた。


「ルビーさん!!」

「よう、ジャスミン。今、どんな状況?」

「えーっと……」


「『爆発』」


 あ、やばい……!

 戦闘中だということをすっかり忘れていた。

 というか、こんな時くらいは空気を読んで!


 爆風に備え、剣を前に突き出す。

 しかし、それよりも早く、


「『守護』」


 ルビーさんが私たちの周りに魔方陣を張った……?


「「えっ!?」」

「なるほどなるほど。ツツジが裏切り、リアトリスの能力が暴走したわけか」

「いや、そんなことよりも、今の力って……」

「ん? 僕の能力のことかい?」

「そんなことより、あなた、何者なの……!?」

「あ、ごめん。自己紹介がまだだったね。僕のことは、ルビーと呼んでくれ。ま、ただの亡霊だよ」


「そんなわけないでしょ!! 自分の魔力量を知っていてそんなことを言ってるの!?」


 さすがにそれは無理がありますよ、ルビーさん。


「うーん、本当ほんとのことなんだけどね……。……とりあえず」


 突然放たれる、大量の魔力。

 それに伴って増大する威圧感。


「――二人とも、どっちから殺されたい?」


 ……魔王と対峙したときって、こんな感覚なんだろうか。

 そう思わせるほどのプレッシャーを、ルビーさんは放っていた。


「あ、あんたがどれだけ強くても、私に勝つことは」


「『封印』」


「……へ!?」

「お前のその能力は、流石に面倒くさいからな。しばらくは使わせないぜ」

「……ッ! この……!!」

「ジャスミンちゃん、例の短剣を少し貸してくれないかな?」

「あ、はい」


 ポケットから大急ぎで取り出し、ルビーさんに渡すと……!

 一瞬強く発光したかと思えば、刃が深紅に染まりあがった。


「君たちがこれから戦う相手は、今まで出会ったどんな敵よりも強い。せいぜい、本気でかかってきなさい」

「なめるな!!」


 ルビーさんの煽りとしか捉えられない言葉に激情し、ツツジが一瞬で距離を詰め、短剣を振るう。

 ……が。


「甘えんだよ、ガキが」

「な!?」


 ルビーさんの腕がブレると同時に、ツツジの短剣は遠くに弾き飛ばされた。


「俺が寛大でよかったな。でなかったらお前、今の間に首の一つや二つ切られてたぞ」

「……ッ!」

「『切断』」

「おっと!!」


 リアの放つ斬撃を楽々と短剣で流す。


「ほらよ、お返しだ! 『斬』!!」


 リアの頭すれすれを通った斬撃は、そのまま後ろにあった家を貫通し、二、三軒程を真っ二つにした。


「マ、マジで何者なの……!?」

「だから言ってるだろ? 俺は、ただの亡霊だ」

「……だったら」

「面倒臭いし、先に答えてやる。ま、簡単なことだがな。俺の能力が、リアトリスと同じだってだけだ」


 う、嘘でしょ!?

 この世に、同じ能力を持っている人間は二人も……。


 ……あ!


「気付いたっぽいね、ジャスミンちゃん。さっきからずっと言っているように、俺は亡霊、つまり死んでいるんだ。だから、同じ能力を持っているというイレギュラーが発生したんだ」

「そんなことって、あり得るの!?」

「実際に起きているじゃないか。今、この場で」


 ……だとしたら、ルビーさんならリアの能力の暴走を対処できる可能性もあるってこと……?


「ル、ルビーさん……」

「大丈夫、俺が何とかするから」


 私を安心させるようにか、いつも通りの屈託のない笑みを浮かべながらそう返してくれるルビーさん。

 ……ルビーさん、頼みの綱はあなただけなんです。

 だから、どうか、お願いします……!


「さあて、そろそろ温まってきたころだし、俺も少しだけ本気を見せてあげるよ」

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