―第43話― 暴走

 「ぐ、うう……!」

「あら、まだ生きてたのね」

「ツツジ、あんた、なにしてんの!?」

「なにって……。こいつを殺そうとしただけよ?」


 満面の笑みでそんなことを口走りだすツツジ。


 わ、訳がわからない。

 ツツジは、仲間じゃなかったの?

 どういうこと?


 ――ドクン。


 それは、一瞬の出来事だった。

 力なく倒れていたリアから、尋常じゃない量の魔力が迸り、巨大な炸裂音が鳴り響いた。


 恐怖のあまり、全身が動かなくなってしまう。

 それはツツジも同じだったらしく、壁に叩きつけられたまま、驚いたような表情を浮かべて固まっている。


「『爆』」


 ……ッ!!

 咄嗟に剣を構え、何とか爆風を受け切った。

 ……しかし。


「『爆』、『爆』、『爆』、『爆』」


 間髪を入れずに繰り返される爆発を、ギリギリのところで受け流し続ける。

 だが、いつまで防ぎきれるかわからない。

 両腕が痺れ、剣を落としてしまいそうになる。


 いったい、何が起こっているのだろうか。

 いや、もしかして……。


「やった、やったわ……! 成功したわ!!」


 いつの間にかリアの横に立っていたツツジが、そんな歓声をあげながらリアに抱き着き……。


「やっぱりさ、予防策ってのは準備しておくものよね。」

「ツツジ、リアに何かしたの!?」

「ん? えっとね、能力の強制的な暴走を起こしたの。お兄ちゃんの能力ってさ、感情がぶれちゃうと制御がしづらくなるらしいんだよね。だから、ちょっと魔法を使ってみたの」


 能力の……暴走……?

 ツツジが何かを話し続けるが、それすらも耳に入らない。


 ルビーさんの恐れていた事態が起きてしまったんだ。

 それも、ルビーさんの想定の範囲外だろう。

 まずい、まずい、まずい……!


「ジャスミン、そんなに防御ばっかりしてていいの?」

「……どういうこと?」

「だってさ、もともと最強だったお兄ちゃんの能力が暴走しちゃっただよ? 早く止めなきゃ、弱っちい人間たちじゃ、すぐに根絶やしにされちゃうよ。まあでも、今更反撃したところで、あなた程度がお兄ちゃんを倒せるとは思わないけど」

「あんた、いい加減に」


「『爆発』」


 今まで以上の爆発が起き、後方まで思いっきり弾き飛ばされた。

 ……まずい、骨が何本か折れた。

 回復魔法を……。


「『爆発』」


 ッ!!


 ……魔法を使う暇さえ与えてくれないようね。

 でも、どうしよう。

 このままじゃ、リアを止めるどころか、私まで殺されてしまう。


 ……そんなんじゃ、ダメだ!

 きっと、ここで止めなかったら、私も、リアも後悔してしまう。

 そんなことになる未来は、絶対に嫌だ。

 だったら、私が死ぬ気で……。


 そうだ。そうだ!

 ルビーさんから預かったブレスレット!

 今の今まで忘れてしまっていたが、これにはルビーさんの力が込めてあるんだった。

 ルビーさんの実力はわからないが、このブレスレットから感じられる魔力は相当なものだ。

 これなら、リアを止めることもできるかもしれない。




 お願いします、ルビーさん。

 リアの手を汚させないためにも。

 人類を救うためにも。

 どうか、どうか……。


「私に、力を貸してください!!」

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