―第42話― 帰郷

 翌朝。

 私たちはリアに連れられ、サンビルの近くにある平原まで来ていた。


「二人とも、装備は準備できてるか?」

「もちろん!」

「私も大丈夫です」

「それじゃあ、早速ネメシアまで飛ぶか」


 そう言ってリアは、いつも通りの笑みを浮かべる。

 うん、このぶんだと、リアの能力の暴走とかも無さそうね。


「『移動』!!」




「ね、ねえ、リア? ここが、ネメシアなの……?」

「正確には、ネメシアのすぐ近くにある森だがな」

「なんなの、この濃さの魔力は……」

「これは、魔物の影響でしょうか……」

「いいや、違うな」


 一人だけ平然とした様子で立っているリアが、ツツジの予想を否定する。


「とりあえず、町のほうまで行くぞ」


 前を歩いているせいで表情が見えないが、その後ろ姿からはどことなく寂しげな印象を受けた。




「……着いたな」

 何だろう。

 町全体から、“違和感”を感じるような……。


「リアトリスさん、大丈夫ですか!?」


 ツツジの声が聞こえ、そちらを向くと。


 ――リアが、涙を流していた。


「……ごめん。少しよりたい場所があるんだ。いいか?」

「え、ええ。私たちはいいけど……」




 街の中は、意外と普通だった。

 サンビルに負けず劣らずの大きさの教会や、少し古い構造をした建物の数々。

 そんな光景の中、一つだけ奇妙な点があった。

 ……それは。


 人がいないことだ。


 本当に、一人もいないのだ。

 恐らく、何年間も無人の状態が続いていたのであろう。

 しかし、そんな中で漂う生活感は不気味なものを感じさせた。

 まるで、ある日突然人がいなくなったような感じだ。




 広場の中心まで来たところで、リアトリスが突然止まった。


「ここだ」


 リアトリスの視線の先に会ったのは、処刑台だった。


「ここがどうかしたの?」


「……二人に、というか、ジャスミンにだな。まだ言ってなかったことがあるんだ。ネメシアはな」


 一拍の後、リアはこう続けた。


「ここは、俺の生まれ故郷なんだ」


「え!?」

「この間死んだときに思い出したんだ。……そしてここはな、俺の母親が殺された場所でもあるんだ」

「…………」


 突然の情報に頭が真っ白になる。

 リアがこの町出身?

 それより、母親が殺されたって……。


「この依頼を受けたのは、母親の供養と、町の様子を知りたかったからなんだ」


 眼に涙を浮かべたリアは、そのまま膝を地面に着け。


「ごめんな、母さん。少し遅くなった。俺、ちゃんとこの町に帰ってきたよ。あの時の約束、たぶん守れてると思う。今の俺は、仲間に囲まれて、結構楽しい日々を送れてるよ。それに、魔王軍幹部だって倒せたんだ。だから、だからさ……。もう、ゆっくり眠ってていいんだよ」


 そこまで言って、リアはその場で泣き崩れた。


 リアがどんな環境で育ってきたのか、私は知らない。

 でもきっと、たくさんの愛情を受けて育てられてきたのだろう。


 会ったことはありませんが、リアトリスのお母さん。

 彼は、とても強く、優しい青年に育っています。


 祈りをささげようと目を閉じた、その瞬間。


 ――ドスッ。


 静寂に包まれたネメシアに突如として響いた鈍い音。


「これでビオラさんとお揃いだよ。よかったね、お兄ちゃん《・・・・・》」

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