―第38話― 頼みの綱

 「や、久しぶり」


 暫くぶりに見た、真っ白な部屋。

 そして、これまたしばらくぶりな人物。


「お久しぶりです。ルビーさん」

「……うん。やはり、君はすごいな」

「えっと、何がですか?」

「前回会った時に比べて、格段に強くなっている。多分だけど、もう少し鍛えたらリアトリスといい勝負できるんじゃないかな」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。ライトニングを完璧に使いこなせるようになれば、君はリアトリスやツツジにも負けないくらいには強くなると思うよ」


 あの二人に……?


「なんか、ピンとこないですね……」

「まあ、その時が来れば分かるはずさ。……そんな時が来れば、流石の僕でもヤバいかもしれないな」

「え、ルビーさんってどのくらい強いんですか?」

「うーんとだな……、たぶん、今のリアよりも少し強いくらいかな」

「そ、それってかなり強くないですか!?」

「まあ、踏んできた場数が違うからね。それに、少し特殊な事情もあるしね」

「その事情について聞いたりするのは……」

「もちろんだめだよ」

「ですよね……」


「さて、今日は、君に話しておきたいことがあったんだ」


「話したい事?」

「ああ。ま、そんなに重い話でもないと思うから、気を楽にして聞いてなよ」

「は、はい」

「……話というのは、リアトリスのことだ」

「リ、リアがどうかしたんですか?」

「うーん、どうしたというか……。どうなったというか……。まあ、簡単に言うと、今までとは比べ物にならないほどに強くなった」

「今までよりも!?」

「ああ。正確には、元々あった能力を完璧に使いこなすための準備ができたというところかな」

「準備?」

「それについては、こっちで色々と考えているから大丈夫だ。そして、ここからが本題なんだが……」


 凄く辛そうな顔を浮かべたルビーさんは、こちらから顔を逸らし、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「今の彼は、非常に不安定な状態なんだ。それも、いつ心が壊れてもおかしくない程に」


 一瞬、思考が停止する。

 ……リアが?

 でも、今日だってすごく元気そうだったし……。


「今は、僕の能力で多少精神を落ち着けさせている。でも、それもあと数日しか持たない。……最悪の場合、能力の暴発が起こるかもしれない」

「……ッ!!」

「もしそうなった時には、僕も全力で止めはする。だが、僕がうつつでできることというのは、かなり限られてくる」

「ツ、ツツジや私でも無理ですか……?」

「……限りなく入念な準備を行い、一切の手加減なしで挑んでも、良くて相打ちといったところだ」

「それじゃあ、どうすれば……」

「そこで、君にはこれを渡しておきたい」


 そう言ってルビーさんが取り出したのは、青色に煌めく宝石がはめてあるブレスレットだった。


「これは……?」

「魔道具の一種だ。そこに僕の力の一部を込めてあるから、万が一の時はそれに魔力を流し込んでみてくれ。……僕もできるだけの対策は施しておくが、それでも対応できない可能性がある」

「わかりました」

「…………もしもリアトリスの能力が暴発したときには、殺す気で止めてやってくれ」

「……ほ、保証はできません」

「ああ、わかっている。わかっているさ。でも、これ以上……。いや、何でもない」


 何かを言いかけたまま、ルビーさんは口をもごもごと動かす。


「とりあえず、だ。リアトリスのことは君に任せた。どの程度力が及ぶかはわからないが、僕も最大限の努力はする」

「任せてください! 私が絶対に、リアと皆を守ります」

「……本当に、リアトリスはいい仲間を持ったなあ」

「え? 何か言いましたか?」

「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」

「わ、わかりました」

「……そうだ! あれを渡しておこう」


 そう言ってルビーさんは、ポケットの中をごそごそとあさりだした。


「おお、あったあった。はい、これも持っててくれ」


 差し出されたのは、美しい装飾の施された短剣だった。


「これは、僕がよく使っている武器だ。一応、神器だし役に立つと思うよ。多分、ツツジちゃん辺りに渡せばいいんじゃないかな?」


「神器!? そんなものを簡単に渡していいんですか!?」

「大丈夫でしょ。全職業対応のものだし、バフ効果もあるから」

「そういう問題じゃないですよ!!」

「……さてと、そろそろ時間だ。どうか、リアトリスを頼むぞ」

「もちろんです!」

「……最後に一つだけ」

「なんですか?」

「リアトリスは君が思っているよりも強く、君が思っているよりも弱いんだ。だからこそ、君たちがそばで支えてやってくれ」


「当り前じゃないですか。だって、私たちは仲間なんですから」


 ふっと安心したように微笑んだルビーさんの顔からは、決意の色が窺えた。

 ……ように見えた。

 真意を確かめる間もなく、ルビーさんは指を鳴らした。

 視界がゆがみ、意識が覚醒していくのを感じる。


「頼んだよ。サンビル最強の冒険者様」

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