―第37話― 絶好調

 「リ、ア……?」

「よっ、帰ってきたぞ」

「本物?」

「ああ、正真正銘リアトリスさんだぜ」


 おっと。

 こちらに駆け出して来たジャスミンが、俺の胸元に顔をうずめて泣き出した。


「……もう、心配かけないでちょうだい」

「……ごめんな」


 えっと、なんとなく頭をなでてしまったけど、これって大丈夫だよね!?

 あとからセクハラとか言われないよね!?


「おい、二人とも! いちゃついている暇なんてねえぞ! 魔物どもがどんどん近づいてくる!」

「べ、別にいちゃついてなんかねえよ! ……ちょっとごめんな、行ってくる」

「うん」

「あ、それと。俺が死んでる間に、いろいろと言ってくれたよな。後でたっぷりお礼してやるからな?」

「あ……」


 おい、目をそらすな。


「よーし、それじゃ、ちょっとあいつらしばいてくるから、宴会の準備でもして待っててくれ! 大丈夫、すぐに終わらせてくるから」


 今まで抑えていた魔力のすべてを開放する。


「《移動》」




「お前か、俺を殺したのは」

「! 貴様、なぜここに!?」

「あ? 普通に生き返ったんだよ。想像力働かせろ、アホめ」

「くっ。まあ、良い。もう一度殺せばいいだけの話だからな! お前ら、死んでもこいつを殺せ!!」


 おお、前回に比べて魔物の数が増えていたんだな。

 ざっと数え、二百体。

 まあ、今調子いいし、ささっと片づけられるかな。


「《切断》」


 短剣を抜き、能力の発動と同時に大きく横薙ぎに振るう。

 ……うん、なんというか。


「調子いいってレベルじゃねえな」


 何が起こったのか理解できていないのか、リゲルとやらが周りを見渡す。

 そして、ようやく状況が飲み込めたのか、膝から崩れるように倒れた。

 そりゃあそうだよな。


 だって、今の一撃でリゲル以外の奴ら全員を切り倒したのだから。


「さて、何か言い残すことはあるかな?」


 リゲルの喉元に短剣を突きつけ、魔力のプレッシャーをかける。

 俺を一度殺したのだ、その落とし前はつけてもらわないとだよなあ。


「おま、え、何者なんだ……?」

「俺の名前はリアトリス。『最弱の冒険者』の二つ名持さ。じゃ、次生まれてくるときは悪さするんじゃねえぞ」

「ひぇっ! た、助け……」

「おいおい、俺を問答無用で殺しておいて、今度は命乞いか? 許すわけねえだろ」


 あ、そうだ。


「宣教師のような恰好をした魔物が魔王軍の中にいないか?」


 その問いに対し、リゲルは大きく目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。


「し、知らない……」

「嘘つけ。……正直に答えれば、見逃さんこともない」

「い、いや、ダメだ。無理なんだ。俺は、何も話せない」


 ち、ちょっと待て、こいつ、なんかおかしい……。


「あ、ああ、お助け下さい。お願いです、わたくしは何も情報は……」

「!! 《防護》ッ!!」


 小さい魔力の動きを感知し、咄嗟に守りに入る。

 その瞬間、リゲルを中心に高威力の魔力弾が弾けた。


「……あ、あぶねえ」


 あと一瞬遅れていれば、俺も塵と化していただろう。

 街の被害は、衝撃波が飛んだ程度か。

 良かった。

 ……ああ、なんか、嫌な予感がしてきたなあ。

 それでも、今は。


「祝勝会と行きますかね!」




「!!!!!!」

「ほら、無理するから……」


 うげえ、調子に乗って飲み過ぎたなあ。

 こりゃあ、明日は二日酔いだな……。


「でもさあ、今日はなんだか心地が良いんだよ。こうやって、みんなで酒を飲んで、騒いで、暴れて……」

「……でも、よかったの?」

「何がだ?」

「能力について、私が話しちゃったじゃない」

「ああ、それは別にいいんだよ。隠す必要もなくなったからな」

「え、それってどういうこと?」

「ま、明日までのお楽しみ、ということで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る