―第39話― 下準備

 さて、どうしようか……。

 ジャスミンにはああ言ったが、実際のところほとんど無策の状態なのだ。

 …………。


「そうだ!」




「ジャスミーン、起きてるか?」


 翌朝、特製のポーションで無理やり二日酔いを治した俺は、昨日考えついたある案のためにジャスミンの家まで来ていた。


「ちょ、ちょと待って。今着替えるから」




「お待たせ。どうしたの? あんたから来るなんて、珍しいわね」

「あれ? お前、前からそのブレスレットつけてたっけ?」

「あー、いや、この間ツツジと買い物に行った時に買ったのよ」

「へー」

「それより、わざわざ家に来るなんてどうしたの?」

「あ、そうだった。ちょっと着いて来てくれ」

「?」




「ほら、ちゃんとジャスミンを連れてきたぞ! さっさと通せ!」

「しょ、少々お待ちください」

「……どういう状況?」

「いやさ、ここの守衛どもが全然通してくれなくてさ」

「うん」

「それで、お前なら顔パスでいけそうだなと思ったから、とりあえず連れて来た」

「……というか、そもそもここはどこなの?」

「ああ、えっとだな……」


「リアトリス!! 久しぶりだな!!」


 ……相変わらずの大声だな。


「紹介する手間が省けたな。ここは、こいつの屋敷だ」

「おい、何年かぶりの再会なのに、無視をしないでくれ」

「えっと、この人は……?」

「ほら、自己紹介してやれよ」

「なあ、いい加減にしないと、俺だっていじけるんだからな?」

「早く」


「はい、わかりました! サントリナです。数年前に引退した、元冒険者です」


「サントリナって、ギルドマスターの!?」

「うん、そうだよ」

「ギルドマスターという名のただのニートだ」

「ちょ、そんな言い方はないだろ!?」

「最近した仕事は?」

「近隣に湧いたゴーストの討伐です……」

「いつ?」

「えーっと……、半年前です……」

「…………」


 そ、想像以上に前だった。


「そんなことよりも! ここに来ようだなんて、どういう風の吹き回しなんだ?」

「ま、ちょっとした相談だ」

「ふーん……。よし、とりあえずは早く屋敷に入りな。レディーをいつまでも外に立たせておくわけにもいかないしね」

「だってさ」

「えっと、あ、はい」




「それで、俺に相談ってのは?」

「あんたのことだ。大体の想像はついているんだろ?」

「まあね。でも、君の口から聞きたいんだ」

「……分かった。でも、たいして面白い話じゃないぞ?」

「一向にかまわないから、一から十まですべて聞かせてくれ」




「――って感じだな」


 それから俺は、一時間程度使って能力のことや色々なことを話した。


「なるほどな……。ま、気持ちはわからなくはないかな。俺も面倒なことは大嫌いだし、同じ状況だったら、能力を隠していた可能性があるしな」

「やっぱりわかってくれると思った。それで、相談したいことっていうのがな」

「いいぜ」

「「え?」」


 俺の言葉を遮るようなサントリナの返事に、思わず声が零れる。


「お前のやることが、この町にとって不利益を被るようなことだとは思わんしな。それに、ぶっ飛んだ面白いことのよう気がするしな」

「ありがとうな、サントリナ」

「いいってことよ!」

「とりあえず、計画の概要をここにまとめてるから、適当に読んどいてくれ」

「どれどれ……」




「アッハッハッハ!! やっぱり、相当ぶっ飛んだことを考えてたじゃないか!」

「リア、本気でこれをやるつもりなの!?」

「ああ。俺の魔力と能力なら可能だ」

「あー、ほんっとうにお前ってやつは……。面白いことばかり考えるな」

「それで、どうだ? やってもいいか?」


「もちろんだ! これは、うちのギルドも全面協力するぜ」


「マジか!」

「明日までに、冒険者や各方面に俺が話をつけといてやる。任せとけ!」


 普段はポンコツナなサントリナだが、こういう時には本当に頼もしいな。


「すまんが、最高級の酒を二人にふるまってやってくれ! 今日は最高の気分だ!」

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