―第35話― 夢?

 「これより、この者の処刑を始める」


 普段の処刑とは違い、全員の間に重たい空気が流れる。


「ビオラ殿、まさかあなたを手に掛けることになるとは思いませんでした」

「執行官様、今はあなたの業務の場です。誇りを持ち、最後までやり遂げなさい」

「シスター……」


 懐かしい響き。

 私は、妊娠するまでの間シスターとして教会で働いていた。

 能力の特性上、神職が最も適していると考えたのだ。

 そして私は、この街に対して精一杯の献身を施した。

 子供たちへの教育も行ったりした。


 あの頃は楽しかったなあ。

 そして、その時の教え子の一人が彼だ。

 本当に、立派に成長してくれている。

 目では見えずとも、その声から彼からの成長を感じる。

 初めて会った時は、一緒に来た友達の後ろに隠れてたっけ。

 そんな彼が、警護団でも一、二を争う実力者になり、こうして犯罪を取り締まるようになっている。


「シスター、本当に申し訳ありません」

「……そろそろ、刑を進めないとですよ」

「…………はい」






「――よって、この者は火刑に処す」


 それが告げられた直後、執行官のそばで待機していた者たちの手により、ビオラさんは磔台に括られた。

 全員が、思わず顔を俯かせた。

 しかし、誰一人として刑を止めようとはしない。


『『切断』』


 ……やはりだめか。

 あと少しで、ビオラさんの処刑が始まってしまう。

 でも、俺にはどうもできない。

 自分の無力さが憎い。


 本当に、何もできないのか……?


「火を放て」


 執行官の声が刑場中に響く。

 着火魔法により、木製の磔台が勢いよく燃え出した。


『ビオラさん!』


 俺の声が届いたのか、顔をこちらに向け。


 ――優しい微笑みを浮かべた。


 その直後、紅色の炎はビオラさんの全身をあっという間に覆った。

 ……俺は、何もできなかった。

 だったらせめて、彼女との約束を……。


 ……!!??!!!?!

 重い。

 何だ、このプレッシャーは!?

 いや、これは……、魔力か!?


「おかあ、さん……?」


 少年!?

 彼には、ビオラさんの処刑のことを誰も伝えていなかったはずだ。

 いや、それよりも、なんて力だ!?


「なんで、なんでお母さんが……」

「おい、――――――を連れて行け!!」


 執行官の言葉で、その場にいた警護団が動き出す。


「ああ、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで!!」


 魔力が爆発し、近づいていた警護団が吹き飛ばされる。

 ちょっと待て、この魔力の流れは……!?


「『死ね』」


 魔力を浴びた警護団が、泡を吹き、倒れる。

 もしも、もしも俺の予測が当たっているのだとすれば……。


「お前ら、皆殺しにしてやる!!」


『『待て』!!』


 全魔力を振り絞っての能力行使。

 だが、何一つとして変化は起きない。

 もう、間に合わない。

 魔力が凝縮され、第二の爆発が起こる。


「『お前ら全員、死ね』!!」


 その波動は、町全体を覆いつくした。

 魔力を使い果たしたためか、少年はその場に倒れる。

 一拍の後、町中の人間が一斉に倒れた。


『あ、ああ、あああああ……!!』


 これは、一体何なんだ!?

 何が起こっている!?

 あ、あれは……。


『俺の、能力』


 あの魔力の流れと、能力の性質。

 俺が見間違えるはずがない。

 どういうことだ!?


「離して!」


 不気味な静けさを破るように、叫び声が響く。

 今の声は、ツツジか……?

 声のほうを向くと、ツツジが宣教師のような男に連れ去られようとしていた。


「『インクリーズ』」


 何かの魔法だろうか。

 ツツジは膝から崩れ、気を失った。


「『テレポート』」


 くそ、転移魔法を使われたか。

 だが、今はそんなことどうでもいい。

 あれは、あいつは……。

 ……あれ、なんか近づいてきてるな。


「キャッ! 人が倒れてるわよ!!」


 あれは、冒険者か?


「ひでえな。魔族の仕業か?」

「おい、こっちの子供はまだ息があるぞ! おい、早く回復魔法をかけてやれ!!」


 待て、そいつは……!


「『ヒール』!」

「…………あ、あれ……?」

「あ、よかった! 目を覚ました!」

「お姉ちゃんたち、誰?」

「私たちは、通りすがりの冒険者よ」

「ああ、ここらへんで強大な魔力を感じてな。何か知らないか?」

「う! な、何も思い出せない……」

「ああ、なにも無理に思い出そうとする必要はねえよ」

「それよりも君、名前は?」

「えっと、僕の名前は……」


 待て、聞きたくない、聞いちゃいけない。

 でも、体が動かない。

 聞かなくちゃ……いけない。


「――リアトリス」

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