―第34話― 悪夢

 『ビオラさん、調子はどうですか?』

「あら、今日も来てくれたんですね。ありがとうございます」


 以前に比べて、明らかに顔色が悪くなっているな。

 まあ、当然といえば当然なのかな。

 …………本当に、理不尽ってものは大っ嫌いだ。




 あの日、少年が駆け出した後を全力で追いかけた。

 そして、少年が警護団に抑えられている間に、先に家までつくことができた。

 ……だが、そこにあったのはただの悪夢だった。


 玄関に広がる血だまり。

 その中心には、少年の祖父が倒れていた。

 警護団の一人の剣に血がこびりついているところから見るに、こいつらに殺されたのだろう。


 ……一体何が起こったんだ?

 妙に冷静な頭をフル回転し、この状況を整理しようとした。

 しかしそれも、突如として響いた音によって遮られる。

 乱雑に開かれた扉と……。

 ……………………。


 手錠につながれたビオラさん。

 ……ああ、益々頭が混乱する。

 これは、なんだ?

 一体、何が起こっている……?

 そうだ、少年!!


 ……時すでに遅し。

 あまりの衝撃ゆえだろうか。

 涙を流すこともないまま、少年はただ虚ろな目でそこに立っていた。

 あまりにも、あまりにも酷な現実。

 あれ、夢だったっけ?

 ……だったら……。


 早く、覚めてくれ……!




 そして、あれから数日が経過した今。

 少しづつ、状況を理解してきた。

 ……どこからか知らないが、ビオラさんの能力のことがばれた。

 そして、そのことが町の有力者共にも伝わり、能力保有の容疑で捕縛されたのだ。

 水晶を使った鑑定も行われた。

 結果は、もちろん能力有。

 ビオラさんは監獄に入れられた。

 ……刑は明日執行されるようだ。


『ビオラさん、俺にできることがあれば何でも言ってください。……とはいっても、そちらに物理的干渉はほとんどできないようですが』

「そういってくれるだけでも嬉しいです。それに、こうやって話しかけてくださるので、何とか暇をつぶせているんですよ!」

『そうですか……』


 力のこもった語尾と、少しぎこちない笑み。

 それが、あまりにも痛々しい。


「……息子のことを、どうかよろしくお願いします」

『え?』

「昨日、父上が会いに来ました。私を守って戦い、……死んだと」

『…………』

「可能な範囲でいいです。……どうか、どうか、あの子のことをよろしくお願い致します」


 頭を下げ、肩を震わせながらの懇願。

 ……俺の能力って、許容範囲はどこまでだったっけな。


『……分かりました。やれることは精一杯やります。こう見えても俺、約束は守るほうなんですよ?』

「……! ありがとうございます、ありがとうございます」


 この夢が覚めるまでの間だけでも。

 その間だけでも、俺はこの約束を守って見せよう。

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