第4話ー3.派遣でアイドル 見学編
夕方に、約束通り啓子と哲子ははやってきた。後ろから担当者もやってきた。
「おまたせ」
「こんにちは」
「よろしくお願いします」
三人は挨拶をした。髪が長い女性、啓子はピンクの服を、哲子は黄色の服を着ている。
「じゃあ、早速職場の方に案内しますね」
と言って資料室まで案内することにした。
「じゃあ吉田さん、しっかり見せてもらうわね」
啓子は昼間と違って、砕けた言葉で話しかけてくる。表情も穏やかだが、笑っているわけではなさそうだ。怖いな。そう考えているうちに資料室へ着いたではないか。そして、僕は啓子と哲子を連れて、資料室へ入った。
「何ここ? 何もなくない?」
「最近、出来た部署なんで、まだ何もなくて……」
「これから始める感じなんですか?」
「はい、それでアイドルを集めてるわけですけど」
「で、そのアイドルに私たちがなれと……」
「……はい」
「もし、それが本当だとした前提で、今の活動は何?」
啓子はそう聞いてきた。まだ出来たてで、大した活動はしてないんだが……。
「今は、それに向けての練習ですね」
「そうなるわよね」
「はい、じゃあ、歌を歌ってもらいます、海音、おいで」
「はーい」
と、海音は歌を歌い始めた。彼女の歌声はとても綺麗だ。まあ、ロボットだから。
「上手いわ。でもさ、これ、ロボットじゃない? 喋り方が、もう……隠してもバレバレでしょ?」
うわ、この派遣社員、きつすぎだわ。しかもここまで鋭いとは、見た目通り頭がいいな。
そう思っていると、
「他よ。他にはないの?」
と、啓子に言われたので、公園に向かった。
「この子たちが踊ってくれます」
そこにいたのが、緑と宇音と真凛だった。僕にはそのはるか後ろに織田さんが電話しているのが見えるが、完全に今は背景となっていた。
「うっ、まあいいわ、何でもいいから踊って」
啓子の表情が一瞬曇ったように感じた。何かに気がついたのか?
それをよそに緑と宇音と真凛は踊っていく。完璧ではないが、順序は間違っていない。
やはり、まだ始まったばかりだからビシッと決まるわけもなく……。
「こんなもの……? まだまだ出来ると思うわ」
啓子はこう言うことを口にした。
「今回は保留にするわ。また時間を空けて見学に来るから」
啓子はそう言って帰ろうとしたが、悔しい。認めてもらえなかったのが。それに、彼女はまた来るように言っていたが、僕はもう来ないんじゃないかと思ってしまう。だから提案した。
「あの、一週間でいい! 一週間後にもう一回ライブをさせてください! お願いします!」
と、僕は頭を下げて、啓子に食い下がった。正直、怖かった。「ダメ」と言われるだろうな、と、思っていた。すると、啓子が意外な言葉を口にする。
「どこでやるのよ?」
って、言うことは、また来てくれるの?
「だから、どこでやるの?」
「決めてません」
「仕方ないわね。うちの派遣会社のスタジオを使わせてあげるわ。あ、でも当日しか無理だから」
「え?」
多分、啓子が会場を手配すると言っているんだろう? それにしても、見学者に会場を手配させるようで、本当に僕にアイドルプロデューサーなんて務まるのだろうか?
********
「今日はうちの派遣社員があのような発言を致しまして申し訳ございませんでした」
その後、二人の担当者の男性が頭を下げる。
「いいですよ。でも、これからが大変かもしれません」
「『はい』か『いいえ』で答えると思ったのですが、まさかライブをすることになるとは」
「いいんです。確かに、今日の彼女たちはひどかったです。多分、彼女たちが一番分かっているはずです」
「行うのですね。では、私も同席します。担当者がついていないといけない事になっていますので」
「分かりました」
********
確かに今日のアイドル披露は散々だった。即興で踊るとああなってしまうのか。怖い。
彼女を傷つけたのはいきなり踊らせた僕の責任でもあるし……。そんな卑屈な気持ちになっていたら、結香からLINEが来た。
「って、なんでこんな絶妙なタイミングで来る!?」
そして、その中身を確認してみた。
『今、何やってる?』
僕は今あったことを正直に書いた。「悔しい!」と付け加えて。すると、こう帰ってきた。
『入りたい』
結香がアイドルに加入したいと言っている! ただ、今はそれどころじゃない。さっき苦し紛れに提案したライブを何としてでも成功させなくては。だから、
「それについてはちょっと待ってくれないかな? 今のメンバーでまだやらないといけない事がある」
と、返信した。
『何?』
「今日の失敗を取り返すために、今度ライブをやる。だから結香にはそのライブに観客としてきてほしいんだけど」
と、送ると、
『直くんがそう言うんだったら、観に行くよ。がんばってね』
と、返ってきた。
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