第4話ー2.派遣でアイドル

 今、僕にできることは、作曲と結香の返事待ちだな。それに、他にも考えないといけないことは山ほどある。


 とりあえず、今できることは作曲だ。僕は、作曲するために今の実質の職場である資料室へと戻った。しかし、工場の資料室であることもあって作曲出来るものがない事に気付き、資料室を後にした。そこで、僕は織田さんと出会う。


「吉田さん、探しましたよ」

「あ、実は僕も織田さんを探していたところなんですよ」

「それで、派遣社員の求人、出しましたよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 織田さんには本当に感謝しかない。これで、後は応募が来るのを待つだけだ。


「織田さん、そろそろ作曲をはじめないとこのまま曲が無いってのも……」

「そうですね。そろそろ始めた方がよさそうですね」

「分かりました」


 僕は資料室に戻って曲のコンセプトを考えた。


 三十分後。


「織田さん、全然進みません」

「曲の中身までは教えられないですけど、作り方なら分かりますよ」

「どういうことですか?」

「『デスクトップ・ミュージック』を使うんです」

「『デスクトップ・ミュージック』?」

「DTMですね。パソコンで打ち込みするソフトです。パソコンなら吉田さんも持っているでしょう?」

「持ってますけど」

「ぜひ考えてみてください」


 そう織田さんが言うのでそのデスクトップミュージックについて調べることにした。



 結局、パソコンで調べるために資料室に戻ってきた。早速、検索をかけて見た。


「デスクトップミュージック。パソコンと電子楽器をMIDIなどで接続して演奏、録音する作曲行為の総称。って、楽器使えないんだけど」


 楽器がいるのなら僕には無理だ。諦めかけたが、もう少し詳しく調べてみると入力できることが分かった。


「これなら知識のない僕でも出来そうだ!」


 ならよかった。その後、検索と一緒に出てきたDTMソフトを三つほど調べておいた。


********


 資料室を出ると織田さんがいた。あれから三十分くらいたったのにどうしたのだろう?


「吉田さん! 派遣求人の申し込みが来ました」

「あれ、意外と早いですねー」


 僕はその派遣会社に行って、求人の申込者と面接をすることになった。


「吉田さん、面接お願いしますよ!」

「はい」


 数日後、ついに面接する日がやってきた。僕は思いついたことがあるので僕が面接に行っている間、アイドルたちにある任務を果たしてもらおうと、その指示をしに向かった。


 そして今、僕は工場向かいの公園にいた。ここで僕は思いついたことを緑、宇音、真凛の三人に告げた。


「三人は、家を作って体力作りをしてほしい」

「……」


 公園の中に沈黙が流れるだけだ。それはそのはず。家を作ることのどこがアイドルらしいことなんだ。そこでもっと詳しく説明する。


「みんな、今、家がないじゃないか? ここに家を作って暮らすって事は悪いことじゃないと思う」


 すると、すでに家らしきものを建てている緑が黙って頷く。


「はい☆」

「吉田さん、分かりました」


 と、宇音と真凛も返事を返す。


 続いて、保管倉庫に行って海音の様子を見に行った。


「おはよう、海音」

「おはよう」

「これから、アイドルを希望する人の面接に行ってくる。海音は歌の練習をしてて」

「はい」


 いつもの無機質な声で海音は答えた。


 で、杏子は? 杏子は、まだ会場の確保を続けている。名声の無さで、会場の確保に苦戦しているのだ。だからこそ、今回応募してきた派遣社員二人に賭けるしかないのだ。


「着いたぞ」


 ここが、例の人材派遣会社、BOOWGのビルの前。前はここを入ろうとして入口で止められてしまった。だから、今度は無事に入れるかどうか、不安だった。


「すみません」

「はい、どちら様ですか?」

「ヒロイックの吉田直之と申しますが」

「吉田様ですね……はい、どうぞ、お入りください」


 今回はあっさりと通過出来たぞ。梅雨の曇天の中、僕は再びあの派遣会社の中へと入っていった。


「失礼します、村原啓子むらはら けいこさんと華南哲子かなん てつこさんを訪ねてきたんですが?」


「しばらく……」


「ああ、これは吉田さん、お待ちしておりました」


 カウンターの人に声をかけたら後ろから若い男性が姿を現した。その男性は僕を面談の予定となっている部屋へと案内してくれた。


 カウンターから近くの部屋だが、二畳ぐらいのスペースに、二人の女性が座っていた。


「どうも、株式会社ヒロイックの吉田直之と申します」


「「よろしくお願いします」」


 顔は恥ずかしくて直視できていないが、僕の目の前でお辞儀をしている二人の女性のうち、僕からみて左、髪型が長くてウエーブがかった女性だ。右側の女性は髪の毛が肩までない。あと、彼女たちは、僕と同じか少し上ぐらいの年齢だと思う。そして、お約束ではあるが、二人とも美人だった。


「改めまして。僕はヒロイックの吉田直之といいます。お二人からもお名前の方をお聞きしたいのですが」

「私は村原啓子と言います」

「華南哲子です」


 髪が長い方の女性が村原啓子。黒淵の眼鏡をかけたいかにも知的でクールそうな女性だ。髪が短い方の女性は華南哲子。ちょっと幼そうな顔立ちだ。


「ありがとうございます。僕はヒロイックで、アイドルのプロデュースをしてるんですが……」

「あれ? ヒロイックって自動車部品工場じゃありませんでしたか?」

「はい、そうですけど」

「それが何でアイドルプロデュースなんかしてるんですか?」

「僕はただそう命令を受けただけなんですが?」

「え~? そんな変な命令出すとこなんだ……」

「まあ、村原さん、いいじゃないですか」

「いや、哲子、おかしいじゃん」

「ですけど」

「じゃあ、見学希望していいかしら?」


 啓子はそうクールな表情で淡々と話してくる。ちょっと近寄りがたい……そんな空気だった。


 最初に声をかけた男性が彼女たちの担当者だった。僕は担当者と見学の日程についてすり合わせをした。それにしても心配だ。さっきの様子を見たら酷く疑っていた。確かに工場でアイドルを作っているのは信じがたいと。それは分かる。だが、ひとまずは会社に戻って待機しよう。と、その前に……。


********


 僕は、会社の向かいにある公園にやってきた。すると、そこにはすでに完成した家が三軒あった。そう、僕はここにいるアイドルたちに次の指示を出しに行った。


「織田さん、三人に建築が終わったら体を動かすよう伝えておいてください」

「体を動かす?」

「はい、例えば、動画に上がっているこんなダンスとか」


 僕は、織田さんにその動画を見せた。これは、杏子がアイドルになるきっかけになった動画だ。僕の中では記念すべきものになっている。


「いいですねえ。分かりました」

「織田さんは、現場の方も担当されてるんですよね」

「はい、そうですけど、こっちの方も大切なので、つきっきりで面倒を見ます」

「はい……」


 って、現場に戻りたくないだけだろ!


********


 その後に、資料室に戻って二人のためにいろいろ準備をしたが、大丈夫なんだろうか?

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