第3話-1.いざ! 大和旅館へ


 センマイコーヒーで大和さんと会って大和旅館まで来てほしいと頼まれた。僕はそれに乗ることにしたが、その場に居合わせた結香は僕を監視しに行くという。そんな結香だけ来られても息が詰まるような思いである。そこで、二宮さんに電話をかけた。いや、さっきも二宮さんがいたけど言えるはずがなかった。


「こんばんわ、吉田さん」

「二宮さん、急にすみません」

「はい、昨日のことですか?」

「はい、昨日結香が僕を監視についてくると話していたと思うのですが、二宮さんも付いてきてもらえませんか? あと、その流れで結香もアイドルに誘おうと思ってます」

「はい、私も行こうと思ってましたので。でも、私はその転移して来てる人がアイドルに向いてるかどうかを見に行きたいんです。吉田さんの幼馴染みの……北原さんだったっけ? 私には彼女を止められそうにありませんが、引き入れることについてはやりましょう」

「そうですか、二宮さんが来てくれるだけでも心強いです」

「そう言ってもらえて嬉しいです。それでは、もう1人誘ってみるのはどうですか?」

「それは、どうして?」

「私と吉田さんだけでは判断しづらいことがあるかもしれないですよ。それに、誘うのであれば人数は多い方がいいです」

「分かりました。もう1人探してみます」


 意外とあっさり乗ってくれたな。それにしても、あと一人、誰がいいか?


********


「着いたな」


 と、言うわけで僕が来たのが保管倉庫の西の部屋だ。今の時点で誘えそうな人が江坂さんしかいなかった結果である。そして僕は大和旅館に行くことになったいきさつを彼女にすべて話した。結香や杏子が一緒に行く理由も含めて。


「と、言うわけなんですけど。江坂さん、どうですか?」

「行きます!」


 と、江坂さんは即答でOKしてくれた。なんか江坂さん、楽しそうだな。


 二宮さんにそのことを伝えると「私が江坂さんを連れていくから、北原さんをお願いね」と、いい、当日の配車が決まった。二宮さんには織田さんにちゃんと声をかけるよう言っておいた。


********


 そして、ついに大和旅館に宿泊する日が来た。宿泊用の荷物を持って、僕は結香を迎えに行く。それから大和旅館へ向かう。


 大和旅館は割と山奥に会って、結香の家から一時間以上かかった。 


「結香。結香!」

「ん~?」

「着いたよ」

「え?もう?」


 乗車中ずっと爆睡していた結香の身体をゆすって起こし、僕達は大和旅館へ入っていく。入り口前で二宮さんと江坂さんと合流するも、旅館を入った早々赤いカーペットが敷いてあり、金の屏風や金色の柱がある、豪勢な雰囲気がするエントランスに入る。


「すごい、です」

「もう!大和さんて人、お嬢様じゃないの!」


 中の様子を見て、結香が拗ねる。結香の言う通り、大和さんはお嬢様なのかな? 彼女はおしとやかで、このエントランスを見る限り金持ちな家の感じがする。


 受付の女性に話を伝えると、黄緑色の着物を着た大和さんが僕たちを迎えに来てくれた。


「いらっしゃいませ、皆様、本日はありがとうございます」


 と言って、大和さんは僕たちを歓迎してくれる。さすがはお上品な大和撫子。普通にかわいい。


「こんにちは」

「初めまして」

「こんにち、は」

「ふん、来たわよ」


 そうか、二宮さんと大和さんは初対面だったな。それにしても、何なんだ、結香の挨拶は……。


「みなさんの部屋を案内いたしますのでまずはそこで荷物を下ろしてきて下さい」


 と、大和さんに言われたので、僕たちは四人同じ部屋に入り、荷物を下ろした。こういうお泊まりは楽しいのだが、今はそういう暇もなく大和さんの案内で食堂に行き、昼食を食べた。旅館の昼食は慣れてないので、何が出るのかと思ったら冷やし中華とサラダが出てきた。意外と普通ではないか? と、そう思ったが、新鮮で食べ心地が良かった。また、冷やし中華が冷たくておいしい。最近、暑かったからか、こんな山奥に来て冷たいものを食べると癒される。


 そうやって生気を養えた後、僕たちは大和さんに連れられて、旅館の中を案内される。まず最初に行ったのは夕食を食べることになっている宴会場である。さっきの冷やし中華もおいしかったが、夜はどんなものが食べられるのだろうか? ちなみに僕たちが食べるのは一番狭い部屋になる梅の間で、この他にも松の間、竹の間もある。


 次に向かったのは外庭である。「きれい~」と口々に感動する女子たちに囲まれて、僕も夏の花々が咲き誇る庭に目を奪われていた。


 そして問題の中庭は建物を囲うように旅館の真ん中に広がっている。その中庭をのぞいてみると、確かに変な物がいる。何かがうねったと思えば、次には木のようなものが動いた。気味が悪い。襲ってこないのだろうか?


 僕たちは歩みを止めて、大和さんに尋ねた。


「確かに。変なのがいるな。で、どんな感じですか?」

「はい、戦国武将から亜人まで出てくるんです」

「武将!? それは危ないんじゃないかですか?」

「誰だ!? って怒鳴られることはありますが、武器を突きつけられたことはありません」

「怖いなあ、でも大和さんのその格好も戦国時代っぽいですね」

「さあ、中庭に入りましょう。吉田さん、お願い致します」


 大和さんの格好を評論すると、彼女は冷めた笑顔を見せ、話を変えてきた。僕が行けと……。


「僕ですか?」

「吉田さん、頑張ってくださいね」

「直くん、言ってきてよ」

「ファイト」


 なんで僕が入らないといけないんだろう? 二宮さん、結香、江坂さんも声援みたいなものを送っているし。そして江坂さん、ファイトって……。


 僕は一人で庭に入る。他の四人は縁側で話をしているようだ。


 僕は一人で庭に入る。すると、前方に大きな緑色の長髪の人がいる。これはやばいぞ。


 僕が動きを止めると、その人、その女性は気づいてこちらを振り返った。緑色の髪をした彼女は、大体身長は二メートルで、褐色の肌を持つ。大体特徴はそのくらいか。


 普段の僕なら逃げるのだが、僕は、人間離れした姿だが綺麗で魅力的な顔つきをした彼女に魅了され、体が硬直して逃げられない。別に、魔法にかかったわけではない。それだけ彼女がかわいかった。


「うふっ。こんにちは」

「こんにちは……」

「私は有浦宇音です。よろしくお願いしますね」


 と、彼女は笑顔でそう答える。よろしくって言われても、容姿が人間離れしている彼女は一体何者なんだろう?


「あなたは一体何者なんですか?」

「私、植物と人間のハーフなんですよ」

「はい?」


 と言う。何のことか分からなかったので、スルーして話を続ける。


「ちょっと待ってて」

「はい」


 僕はその場を去った。彼女のこと、大和さんに言わなくては。


 彼女を大和さんに見てもらいたい、でも、彼女は二メートルの身長と褐色の肌を持ち、髪は緑色。大和さんやほかの女の子も、彼女のことを受け入れてくれるだろうか。だから僕は、大和さんのところへ戻って有浦さんのことを告げた。


「大和さん、今、中庭で植物人間みたいな人がいて……」

「大変じゃないですか!? 早く助けないと!!」


 助ける? 有浦さんは元気だけど。そんなに慌ててどうしたんだろう? と思っていたら、大和さんは有浦さんの目の前にいた! 二人が接触したら有浦さんの人種の関係で困る。急がないと!


「あ!」

「吉田さん!」


 僕は夢中で大和さんの後を追いかけた。ちょっと今はその横の三人に構っていられない。すまないけど。


「この方ですか!?」


 大和さんは、有浦さんを見て綺麗な目を大きく見開いていた。体は固まって動いていなかった。彼女は身長約二メートル、茶色の皮膚に緑髪、普通の人たちとは明らかにかけ離れた容姿だ。


「大和さん、彼女と話がしたいです」

「しばらくお待ちくださいね。彼女は大丈夫なのでしょうか?」

「何が?」


 僕は質問した。何が大丈夫なんだ? 大和さんはしばらく硬直していたが、少し経って、有浦さんに聞こえないように僕に耳打ちして話す。大和さんの片手は、姿勢を安定させるためか僕の肩に手を添えられていた。


「ふう、しかし、容姿が私たちと少々変わっていて……」

「それは大丈夫ですよ。僕も少しびっくりしたけど」


 それより大和さんとの距離が近い。僕は恥ずかしすぎて熱くなってしまった。はっと、僕と大和さんは顔を見合って、慌てて大和さんが僕から離れる。それにしても近い距離で見た大和さんも超綺麗だった。


「申し訳ありません! 私ったら、吉田さんにこれほど接近してしまいまして……」

「僕の方こそ、すみません」

「私は吉田さんを信じます。彼女の話を聞いてあげて下さい」

「はい」


 僕は、再び有浦さんの方に向かっていった。

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